奴隷な'私'
'私'編
カタカタとひたすら画面と闘っている'私'、
自分の名前すら最近はおぼろげになり、思い出せなくなっているが、
今現在、所謂【デスマーチ】と言われる、血も涙も枯れてしまう、
マイルストンという名の置き石に、江戸時代で行われていた拷問の【石抱】を連想させながら、
ひたすら自分の忍耐と、【しくり】を起こしてしまう恐怖心と、【しくり】への叱咤に対する恐怖心と闘いながら、
また、眠れてないため体中の倦怠感と眠気で気を失いそうになりながら、
機械的な英数字を画面に入力し、テストツールという無慈悲なエミュレータのご機嫌を伺いながら、
テストツールから吐き出されるOutPutに内心一喜一憂していた。
ふと気が付いたら、いつも通り眉を八の時にして、不機嫌そうな表情がデフォルトの直属上司が、
'私'の真後ろに立ち、作業中の'私'の作業状況をじっと睨め付け眺めながら、
『××くん、いつになったらコードが挙がるん?
そんなことだから、評価点マイナスにされるんよ?
君の替わりなんざ、いっぱいいるんだから、後に控えてる人の為にこの作業を諦めて、
俺の目の前から存在自体消えるか、今日中に作業をクローズさせるか、もういいかげん決めてくれね。』
と普通に現在ではパワハラで訴えられる内容をぶちまけて、追い詰めてくるが、
その当時のIT土方のハードモード職場だと、職場全体でメンバーに奴隷根性を植え込みまくっているため、
また抵抗する気力もなくすぐらいの作業量を被せ、標準化というくだらないルールで縛り追い込む為、
あと、この時代では、パワハラとかなんとかという人権意識なんざ、
『何それおいしいの?』的な扱いだったため、人は消耗品、やれないのは個人の実力不足と、
根性が足りない為と考えている時代であったので、この状態が普通と捉えてきた。
なんだか、作業中、見ている画面がゆらゆらと心なしか揺れてきた。
なんとなくまずいと思っていたが、後ろの直属上司が居るせいで、気を失うことも許されていない。
ただ、身体は限界を迎えているらしく、いわゆるブラックアウトという状態で、
目の前のキーボードに突っ伏して気を失ってしまった…
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数時間経って、気が付いたら、いつも寝ていた事務所に敷いてある異臭のする段ボールに、
'私'は転がされていた。
そんな'私'が意識を戻したことに気づいた直属上司が、
ずかずかと'私'に歩み寄り、
『おい'ぐず'、さっさと自分の席に戻って作業しろや。』
と無慈悲な言葉を投げかけてきた。
どうやら、倒れても許してくれないらしい…
どうやら、本日もこの段ボールを寝床にしなければならないらしい…
どうやら、死ぬことも許されないらしい…