精霊の御加護
お読み頂き誠に有難う御座います。
間が空いてて申し訳なく。
「概ね有ってる」
取り敢えず覚えたことを喋れと言われたら偉そうに肯定されたわ。何様なのよ、この従兄弟共は。親戚の私に王族マウントは通じないってのよ。ナチュラルに偉そうなんだから。
「姫様、俺のことを覚えていらしたのですね……。運命だ……」
「下がりおれ下郎……様!」
「チャレス! 流石に様付けでも下郎はヤバい!」
煩いわ……。この跪いて愛を捧げようとした近衛騎士? 誰? と尋ねる前に従兄弟達がモメてしまったし……。
「姫様、床にお倒れになるのは……」
「何寝ようとしてるんだ! この状況下でアホなのか!?」
面倒くさくなって床に寝ようとしたら、流石に叩き起こされてしまったわ。
床の絨毯がいつの間にかピンクラメの白になっているけれど……悪趣味ね。誰の趣味かしら。
嫌だわ、ラメが膝にもドレスにも付いちゃったじゃない。ああ嫌だ。緑のドレスだから虫みたいなテカリ加減になってる。取れるかしら。
「言っとくが、そのピンクの粉は精霊漬けのせいだからな」
「……何ですって? 精霊……漬け!?」
何なのよ。その地方の神殿のお土産みたいなのは!?
そういや子供の頃視察に行ったカリエンが、聖女ぬいぐるみと聖女ドールやらを、巨大なドールハウスに詰め込んでたわね。
部屋の大半を締めてたから、流石に邪魔だったわ。王女の癖に、親戚一狭い部屋住まいだったんじゃないかしら。
「精霊の加護を受けた、その……姫様が閉じ込められて、その」
「ええいまどろっこしい! 貴様それでも成人近いのか!」
「で、ですが……」
結局何なのよ! ガイセキ侯爵家のボンベルのせいで何が何だかサッパリよ! イジメるんじゃないわよ!
……んん?
この泣き顔、カラーリングと共に地味に記憶にあるような。さっき思い出したえーと、乳幼児院の前に居た、暑苦しい格好させられてた子供? かしら?
「貴方、ライくん?」
「そうです! そうなんです!」
「いや、それとも黒髪に青い目のカラーリングなら前に視察に行った所にえーと、サリくんを筆頭に3人居て、その前の視察で5人……えーと」
「そいつらは、即座に、忘れてください。無関係です。俺が、貴女のライくんです」
「お、おう……ソウデスカ」
中々の勢いで迫りくるもんだから、思わず海老反り……いえ、仰け反ってしまったじゃないの。涙は何処へ行ったのよ。
上背があるから、勢いつけて手を握られるとぶら下がってしまいそう。
「ジャリキラーだ……」
「ショタホイホイって言うんだよ、兄上」
おい、誰か野太い声でジャリキラーだとかショタホイホイだとか言ったわね? 兄上呼びってことはツギ大公家のイエルとイウタね。許さんぞ。
んん? ……ちょっと待って。
ショタ……ジャリ……。言葉は悪いけれど。
そうよ、私って……。
「え、ライくんって……今、幾つ?」
「19歳になりました」
「……じゅうきゅう……? 私、16よね?」
「正式には26だがな」
待て。
え?ちょっと。
はっ、従兄弟達がオッサンになってるってことは……私も歳をとったって事なの!?
居眠りしたらワープしてんのなんて、滅茶苦茶嫌よ!
「か、鏡! 鏡よ鏡! 鏡!」
「喧しいな……」
「姫様、此方を」
用意良いわね。
いや、そうじゃなくて。
「ふ、老けて……ない? 老けて……」
顔色悪いけれど老けては、無いわね?
ま、まあ滅茶苦茶疲れた顔はしてるけれど。くっ、目の下のクマが酷いな! 唇の色も悪い! 口紅は何処へ消えたの!?
……しかも、髪の毛の色が、何だか白っぽい!?
……キレイな薔薇のような薄いピンクになっているわ。何てこと。あのけたたましいピンクの色が抜けている!
……禿げては無いわよね? 後頭部の髪は……有る!
「精霊漬けの中においででしたから、そのままの姫様のお姿を保てたんです」
「だから一体何なの、その精霊漬けとは」
まさか……この周りに散らばるピンクラメがそうだというのかしら。よく鏡を見たら、顔が粉っぽくてクマが濃く見えるのはこの変にけたたましい色のピンクラメのせいかしら。
何処かで見たことのある色っていうか、眼の前の従兄弟共の大半の頭の色っていうか。
いやあ……今の私の髪って美しいわね!
「このライナル……様に見初められたせいでお前は精霊漬けになったんだよ。半目で半分口開けた寝落ち寸前の顔で長期保存されてたんだ」
「は」
「ふ、伏し目がちで何か仰っしゃりそうな神々しいお姿でした」
ちょっと待って。いい気分が秒で消し飛んだわ。
精霊漬けとやらも気になるけど。
「しかも中途半端にコケそうな体勢でな」
「いやウケた……いや、日を増す毎にピンクに染まっていったからな」
「え、私ってピンクの氷漬けになってたってこと?」
「いや、精霊の力だから精霊漬け」
「う、美しかったのよね?」
「寝落ち寸前の顔が美しい訳有るか?」
やだ、取っ組み合いも辞さない気分になってきたわ。
寝落ち寸前の顔は美しからざるものだったようです。