子供は助けるもの(過去編)
お読み頂き有難う御座います。
後一話過去編が続きます。
「困りましたね、お嬢様……」
実は、どーもノカは子供に苦手にされるのよね。だから慰問の時は別の侍女を連れて行くんだけど。
こればっかりはイレギュラーよね。
「うえ、ぐすっ」
「息がし辛いの? コレで鼻をかんで頂戴」
ハンカチはアホ程用意させてたのよね。ピカッテール様の精霊の御使者就任時に感涙に咽び泣く為に。
……役に立って良かったわ。本来の目的とはかけ離れてるけれど……。
「ぶえ……うええ……」
「一体何が有ったのかしら。お友達から仲間ハズレにされたの? それともまさかご両親がお迎えに来ないの? 部署は分かる? あ、部署っていうのは」
「あ、えと。や、やなことしろって……」
「嫌な事を無理矢理させられるってこと? まあ……」
モノによるなあ。
何をさせられるのかしら、この人。いやこの子。
汗もダラダラかいてるし……。親や使用人はどうしてもっとこの子に風通しの良い服を着せないのかしら。
大きくても子供なのに、配慮がなさ過ぎるわよ。
「その詰め襟、苦しいでしょう? 緩めましょうか」
「うん……」
「お嬢様、何とお優しい。ご立派ですわ……うう、羨ましゅう御座います」
「うしろのひと、かおこわい……」
「う、後ろを向いております……うう……」
後ろでノカがアワアワしてるわ。でも、ノカが手を出すと……もれなく子供がギャン泣きするのよねえ。
本人は心優しくて子供好きなんだけれど、何故か顔が強張るらしくって……。笑顔がドヘタクソなのよね。
ってのも、泣いてるいっぱいいっぱいな子供に説明するのもねえ。しかしノカも何だか眉間と鼻のシワが物凄いな。
「私はシャンティ。この娘は侍女のノカなの」
「……ライ……」
「ライくんね。ノカはいい子だから何もしないわ。其処に居て構わなくて?」
「……」
頷く仕草は子供らしいわね。
しかしデカいな。
「お父様かお母様が嫌な事を言ったのね? ライくんはそれを聞きたくない……で、合っていて?」
「あってる……。ぼく、おうちで、おうたをうたったりするのが、すきなの」
「まあ、素敵ね。私は音痴……お歌がヘタだから羨ましいわ」
耳が悪い訳でも無いんだけど、従兄弟共に鼓膜破壊歌とか脳震盪歌だの散々言われるのよね。
「キレイなこえ、なのに。シャンティはヘタなの?」
「え、めっちゃいい子ね」
「お嬢様にタメ口な上呼び捨てとは……。ああ、やはり子供は無邪気で愛らし……いえ、不敬です……うう」
「こ、こわい……」
「ノカ……」
「申し訳御座いません……」
ま、まあそれは兎も角よ。
「イヤな事って言うのは、苦手なことかしら?」
「きしに、なんてなりたくない……。それに、しんせきのオジサンにいっつもイジワルいわれる……。ズウタイ? がデカいだけのどんくさいヤクタタズだって」
「まあ。そのオジサンとやらの名前が分かれば、私が裏から叩きのめそうかしら」
「お嬢様……それは流石にやっていいと思いますわ」
ノカも怒ってるわね。
しかし害悪な親類が居るもんね。たかが十歳か其処らの子供に役立たず呼ばわり?
さぞかし有能なんでしょうね。出世阻止したくなるくらいに。
「そうよね。子供の健全な育成を邪魔する親族は叩きのめし……」
「シャンティ姫様ー、何方にお出でですかー? 馬車の順番が参りましたよー」
うっ、いい所だと言うのに!
でも、このまま放置も出来ないわ。
「いい? ライくん! イジメられたり困った時はこのシャンティの名前を出しなさい! 直ぐに助けてあげるわ!」
「シャンティ……」
……潤んだ青い瞳も美しいし、よく見ると、中々に精悍に育ちそう。
背はもっと伸びるかしら。あ、アウトドア派じゃないんだっけ。という事は芸術系美青年か。伸び伸び歌とかを満喫してくれるなら先が楽しみね!
「そう、シャンティ・マリメリ・ソノサンよ!」
「お早くお願い申し上げますー」
空気を読まない煩い近衛ね!
侍女のノカは顔面岩石と評される心優しい侍女です。