混乱を齎す神託と王族会議(過去編)
お読み頂き有難う御座います。
シャンティの過去の記憶の続きで御座います。
お告げが出たら即、使用人を派遣してチケットを買いにやらなくちゃ。30人で足りるかしら?それとも抽選かしら?
うーむ、運を天に任せるのはちょっとねえ。いい席次になるといいけれど……私ったらクジ運が良くないのよねえ。
王家の威光……コネは駄目かしら。流石にお忍び用チケットには、王族特権も忖度は効かないのかしら。
おのれ、神殿め……。ちょっとぐらい忖度を……いえ、音を上げる迄圧力掛けたらお父様に怒られそうよ。臣籍降下した第三王子に其処までのコネは無いからって。ケチだわ。此処で使わずに何時使うのよ。
まだかなー。
まーだかしらー?
そうだ、今からピカッテール様の輝きで目が瞑れないように、眼科医を呼ぼうかしら。麗しい光に打ち勝ちガッチリ目に焼き付ける為に、目薬を大量に用意させておかなきゃ。ワイン瓶3本位かしらね?
「お静かに!」
あっ!神官の出てきた! んもう! 遅いわ! 全くやる気が無さそうな冴えない神官ね!!
「おー告げが出ましたー。
今代の精霊の愛し子様はーマッシブスパーキン家がライナル様でーすー!」
………………何ですって?
え、目薬……? いえ、耳が……耳鼻科医!?
「き、聞き間違いか?」
「耳が最近遠くて……」
滅茶苦茶周りもザワザワして来てるわね。あ、流石に従姉も起きたみたい。……変に空気読める辺りがあざと可愛くないわよね。じゃなくてよ。
えっと、何て?
マッシ……?
スパークル家ではなくて?
え、何処だって?マッシ……何!?
更に滅茶苦茶ザワザワしてるわよ……!? あの間延びした言い方が若干イラつく神官の言い間違い!?
「言い間違いでは御座いません! マッシブスパーキン伯爵家の末子ライナル様が、当代の精霊の御使者です!!」
冴えない割に大きくてよく通る神官の声が、シーンと静まり返った神殿前広場に響き渡った。
誰だよソイツ、いえ、何処の何方様?
このシチュエーションで……よくも言い募れたわ。滅茶苦茶心臓強いわね、あの神官。
え、でも待って。
マッシブスパーキン……家?
マッシブスパーキン家ぇ!?
あの!?
あの、滅茶苦茶険しい山脈に領地を構え、成人の儀がヒグマか虎の首をへし折って、三つ串刺しにして取ってこないと認められないって噂の……!?
王立騎士団長歴130年連続拝命中で、我が国最強を、あの何でも跳ね返し一族と名高いジョーサイド家と争うあの豪傑一族……マッシブスパーキン家エエエエ!?
此処にいる者達、心はひとつよね。広場が滅茶苦茶静まり返ったもの。
私を含め、ピカッテール様の御使者就任お告げを聞きに来たミーハーな人々達は……滅茶苦茶混乱に至ったわ。
あまりの混乱ぶりに、静まり返って……この手の集まりにいっつも出るスリすら出なかったようなの。ホントなのかしら?
ホントなら、スリのハートまでビビらせるなんて……物凄い事なのね……。
未だに聞き間違いと言い違い談義が其処此処で繰り広げられているの。あまりに混乱したものだから、お告げ聞き直しという前代未聞の事態になったわ。
そして。
神託終わってからというものの、耳鼻科医が引っ張りだこらしいわね。私もちょっと呼ぼうかと思った位よ。
何せ、ウチのお抱え侍医は胃腸メインなのよね。一緒に住んでる母方のお祖父様の持病的に……。
でも、一応診せたら何の問題も無かったわよ。良かったような悪かったような。
「当時、マッシブスパーキン家は、マッシブキーン家でな……」
そして、神託やり直しが決定してからも、あまりの大騒ぎに、王都は大混乱……。
取り敢えず身内だけで、国王であらせられる伯父様から内々のお話が有ったの。
王家の従兄弟達に、伯父様のツギ大公家に、我がソノサン公爵家に、伯母様のガイセキ侯爵家に叔母様のエン侯爵家……あら、出不精で有名な末の叔父様のスエーン侯爵家迄来てるじゃない。やだわ、出不精の癖にミーハーなんだから。
……流石に親戚が50人超えで集まると、大会議室がまあまあ、いえ結構狭いわ。半数以上けたたましいピンク頭だし目に優しくないし。しかも、地味に皆正装してるから、ボリューミーで暑苦しいのよね……。
このティアラも……さっきから蟀谷に飾りがチクチク刺さるのよ。チラチラ動いて視界も煩いし……。誰よこんなの選んだの!? 私だけれど。
あー、今直ぐ毟り取りたいわ……。親戚にドレスアップを見せびらかした所で……1ヨコセヨの価値にもならないのに。
「皆の者、聞いておるのか」
やだ、親戚一同ダレてるオーラに伯父様がキレたわ。ダレるタイミングまで滅茶苦茶身内よね……。頷くタイミングも判で押したかのよう。嫌だわあ。
ええと、『マッシブキーン』から『マッシブスパーキン』へ改名が有ったなんて……。
……大して変わらん改名だから知らなくて良いレベルじゃないの?って突っ込んだら怒られそうね。伯父様は話の腰を折るのを滅茶苦茶嫌われるから。
……自分はガンガン折る癖に、本当にワガママよね。
「当時、精霊の御使者だったピッティ・スパークル嬢の妹……パッティ嬢が、前代の騎士団長を見初められてな。
認めないと、マッシブキーン家の領地で姉を絞め殺して自分も死ぬと……」
「な」
何でやねん。
意味不明が過ぎてつい、親戚一同で異空間に漂ってしまったわ。
しかも、誰か言いかけたわね。私じゃないと良いなぁ。
あら、全員従兄弟達が同じ顔になってるわよ。パッと見大して似ていないのに、ふとした瞬間似ちゃうから血筋って怖いわ。
しっかし、何なのよそれは。情報が多すぎて濃すぎて酷すぎるわ。
ええと、スパークルの令嬢がマッシブキーン家の令息に恋をして……お嫁に行った。
たったそれだけなのに、何なのかしら? この違和感は。
マッチョに押し掛け美女……が悪い訳では無いんだけれど。美女の傍迷惑な行いのせいか、微妙な空気にしかならないのよね……。
……でもまあ兎に角、聞いたこと無いけど表沙汰に出来ないのはよく分かったわ!!
ええと、取り敢えず疑問は挙手!
「伯父様、バイオレンス気質が過ぎませんか。どんなサイコなご令嬢でしたの?」
「滅多なことを言うな。
精霊の御使者なんて人外と語り合えるお役目を代々拝命してたら、極稀に病む方も出てくるのだ」
……いや、そりゃそうかもしれないけれど。
精霊に対して滅茶苦茶夢がブッ壊れたわね。ファンタジーに対して、もうちょっと夢を見たかったのに……。
「兎に角、そのパッティ様が当代御使者ライナル・マッシブスパーキンの御祖母殿なんだ」
「まあ、要するに精霊様はスパークル家の血縁者……を選ばれましたのね。神託しなおしですけれど」
「はい兄上。また病まないのか?」
「はい陛下。
依代が病みそうならもういっそ割りきって、他家を選んで乗り換えればどうなのかしら?」
伯母様(第二王子である伯父の妻)は面倒くさくなったみたいね。手と口が同時に出てる上、科白を旦那様に被せてるわ。流石幼馴染み、遠慮がないのね。
「そんなサービス精神が精霊様に有ったら、苦労せん」
……何と。そういう慮り精神は精霊様には無いみたいね。
精霊様のご機嫌は直ぐ移り変わるらしいし、ご加護もランダムらしいわ。……何でそんなのの加護が必要なのかしら。確かにキラキラ綺麗ー! 神秘的ー! とかさっきまで思ってたけれど、ややこしすぎなんじゃない?
「でも、この件は神託し直しなんですよね、父上」
「本人も怯えているらしいから、念の為な」
……マッシブスパーキン家にしては気弱……いえいえ。誰だか知らないけど、確かに気の毒ね。
子沢山な王族ですね。
因みにシャンティは第三王子の一人っ子です。