後始末にやってこられたようね
お読み頂き有難う御座います。
本日二話投稿致します。順序にご注意を。
「我が一族の者が、勝手をしました」
「ええ、はあ……」
私をはシャンティ。
今私、ちょっと腹立つ思いをさせられたけど、結局は推して然るべき方に頭を下げられているの。
い、居た堪れなーい! 顔色が赤やら青やら、自分でもグルグル変わっている気がするわ。我ながら感情の乱高下激し過ぎ!
……精霊漬けにされたよりも、推しに頭を下げられて感情が滅茶苦茶になるだなんて……。冷静沈着な公爵令嬢な私が、吃驚よ。推し活って動悸が激しいのね!
「シャンティ姫様、お労しい」
……隣のライくんの視線が愛情と勘違いを含んでいて、何だか痛いわね。程々にしとかないと。
で、あの騒ぎの後……取り敢えず帰って、お父様とお母様、そして領地からすっ飛んできたお祖父様お祖母様に囲まれたの。それはもう、滅茶苦茶モミクチャにされたのよね。
上へ下への大騒ぎって、ああいうこと? ……もう再体験したかないわね。
それで……その翌日。ライくんがマッシブスパーキン伯爵カゲッテーラ様と一緒に、事の次第をご説明にいらしたの。
両親と祖父母は、苦虫を千匹噛み潰したようなお顔だったわね。特にお母様とお祖父様の怒りを越して変顔がソックリで、堪えるのに苦労したわ。
いえね、怒るお気持ちは分かるけれど、彼らのせいではないじゃないの。一因ではあるけれど。
でもまあ、護衛と侍女が壁側にズラリと並ぶ中、謝罪を受けているのね。
しかし、お美しいわ。
あうう、……うなじを初めて拝見したけど、このお背中までのラインの美しさ。滅茶苦茶イケてるわ……。
ドレス姿でらっしゃるのよ。それなのに、嘗ての男装がダブって見えるのはどうしてかしら。
うう、格好いいわねえ。ヨダレが……。
「シャンティ姫様?」
「ジュッブフッ、な、何かしらライくん?」
いかんいかん。いけないわ。私ってば、ちゃんとした気高き高貴なる公爵令嬢シャンティ! 婚約者の隣で余所のとのが……レディに見惚れてはならないわ!
「マッシブスパーキン伯の訪いを許して頂き、有難う御座いました」
「感謝している顔ではないね、ライナル」
「……そっちの過保護な言葉のお陰で、シャンティ姫様が傷付かれたんだけど」
あら、え?
ライくんたら、ピカッテール……いえ、カゲッテーラ様にはぞんざいな口調なの?
あらまあ、ちょっと新鮮ね。
「仕方ないだろう。私はライナルの味方なのだよ」
「頼んでないし、遅いよ」
「遅きに関しては謝罪する。それに、精霊は私を選ぶとばかり思っていたからね。……ライナルの姫君もそうだろう?」
「は? ら、ライナルのひみぇ!?」
やだ、そんな爆弾発言を! ちょっと良いわねその響き!
でも驚きすぎて舌を噛んじゃった! 痛い!
「おや、まだ覚悟が足りないのかな」
「……カゲッテーラ」
「……仕方なかろう。言葉を尽くすのは得意ではないんだ」
「要らないことを言い過ぎで、言わなきゃいけないことを省きすぎ」
……あ、それはあるかも。
嫌だわ、時間が経つと更に舌が痛いわね。しかも奥歯で噛んじゃったようだわ……。うう、舌の左奥がズキズキするの。
「……それもお話した方がいいかな。済まないね、シャンティ公女。ライナルの口から話すと、色々と精霊が独自に思いを勝手に汲んで暴走するモノだから」
「……ひょ、ど、どういうことですの」
……シリアスな場面なのに、舌が回らなくて科白がイマイチ決まらないわね……。
うう、痛い。
「シャンティ姫様の舌のお怪我に癒やしを」
キャンピカリン! ピカリン!
「……? 何かしら、この異音」
え? 今、ライくんの科白と共に鳴ったわよね。それに、この変な光は……。趣味の悪い色硝子みたいな色だったわね。
護衛と侍女もザワついているわ……。
あ、護衛が慌ただしく出て行ったわ。状況確認かしら。
「驚かせてすみません、シャンティ姫様」
「……え、何今の前衛的な音と、けたたましいピンクの光は。
十年の間進化した、新手の教会の鐘の音?」
「ち、違います。シャンティ姫様。コレは精霊の祝福です」
「えっ……」
……せ、精霊の祝福?
…………祝福。
祝福?
何も起こってないようだけれど。起こってないわよね?
外を見に行った護衛も、安全でしたって言ってるし。
「舌の具合は如何ですか?」
「……未だ痛いわね。特に改善してないわ」
「精霊は独自に動きますから、恐らく怪我を精霊の感覚で癒やしたのでしょう」
カゲッテーラ様が補足してくださったけど、……な、何じゃそりゃ。
つまり、私の舌の傷は……痛みを感じるけど、ちょーっとだけ治ってるってこと?
……いや、有難いけど……そうなの? 本当に?
単に、変な光と音を浴びただけの気分だけれど……。そんなに治った気がしないわ。
「癒やせと言っても、人の思う様には動かない。それが精霊です。ですが……」
「で、ですが、何かしら……」
その付け加え方、大変嫌な予感がするわね。勿体ぶったお話し方が恐怖を唆るわ……。
「シャンティ公女。貴女はライナルの無邪気な思いつきを真に受けた精霊に、漬けられてしまいました。
アレの名前は……まあいいですね。兄から貴女が歳上好きであると聞いたライナルは、思わず零してしまったのです」
フッて笑うのが最高に似合われるわね……。そんな場合じゃないけれど。
精霊はスパークル一族にべったりなようです。




