改築された王宮の奥で
お読み頂き有難う御座います。
ジワジワですが、快方に向かって参りました。
「シャンティ姫様、此方へ」
「ええ」
……あら? この近衛兵、何だか何処かで見たこと有るわね……。何処だったかしら。
私が精霊に漬け……封印されていた時間で、中々
元第一王女に会いに行くのは少々遅いから、取り敢えず王妃殿下にお話を聞こうかしらと、その辺の侍女を先触れとして行かせたの。
で、近衛が迎えに来たんだけれど……。
あれ?
んんん?
あ、そうだわ。近衛が私のことをシャンティ姫様って呼ぶの……何だかおかしいのよね。
シャンティ公女様、とかソノサン公爵令嬢とかって呼ぶもの。その辺のバリエーションはそれぞれだけれど。
兎に角、私は此処では姫とは呼ばれないわ。
だって、王宮には本来の『姫』がいるもの。
私は確かに王家の血を引いていて、遠い遠い王位継承権は有るけれど、王女宣旨は勿論受けていないわ。
だって、国王陛下の実子、カリエンがいるものね。
あの子が……まあ、今は形の上では歳上だけれど、この王宮で唯一姫と呼ばれる立場なのよ。あの子、そういや結婚してるのかしら。
フォーマルでない場所ではまあ、ソノサン公爵家の総領姫、なんて呼ばれてる事も有るわね。
でも、此処は王宮。一応、親戚に会いに来たとはいえ、公式の場。
その場所で、礼儀を叩き込まれた近衛兵が、呼び間違い……。
なーんか、引っ掛かるわね。
「……」
王宮の長い廊下を先導し、前を歩くのは、背の高い近衛兵。横には私の侍女ふたり。
何時もの通りの光景……まあ、十年経過してるけれど、細かいことはいいのよ。
地味に窓のリフォームがされていたり、壁の飾りが変わっていたり、汚い絵が未だ掛かっていたり……。
階段が増設されていたり。
窓の外に見える中庭が違ったり。
見慣れない。
来たことがないわ。
勝手知ったる王宮といいたいところだけれど、こうまでリニューアルされていたら……。
「ねえ、ノカ。此処って本当に王妃殿下のお部屋へ続く道なの?」
「えっ……」
「ノカは私の侍女だもの。最近、お父様かお母様の付き添いで王宮の奥に来てないわよね」
「は、はい。お嬢様のお世話……は王宮に通って磨いたりしておりましたが、他の業務は内向きのものです」
え、私……磨かれてたの。
ホコリ払われたり? あの会議室で? 家具のように扱われてたの? ……いえ、仕方ないのだけれど複雑だわ。
「……聡明なるシャンティ姫様、貴女はやはり相応しい」
「何がかしら?」
……ふ、不穏な空気漂ってるわー。
でも此処でビビってはいけないわ。私はシャンティ。ソノサン公爵令嬢だもの! 殺気如きで……まあ、ちょっと怖いけれど、顔に出しては駄目よ。相手が調子に乗るわ!
……何とか時間を稼がねば。王宮で事件を起こそうだなんて片腹痛いのよ!
……ちょっと油断して、人気のない廊下に誘い込まれたのは不覚だけれど!
……よくて拉致監禁、悪くて刃傷沙汰……。
……走って逃げるにも、体力が落ちてるのよねえ。重ね重ね不覚だわ。
こっちの決意を知らずに、思わせぶりな笑顔で振り向いたのはひょろっとした近衛兵……本物なのかしら。錆びたような艶のない灰色の髪に……目は、青いわ。
大体うちの国の近衛兵って20〜30歳が適正年齢なんだけれど……彼は30歳くらいに見えるわ。
この、青い目。
背が高いのによく分かる青さ。
何故か背筋が寒くなって、思わず耳飾りを触ってしまった。
ライくん……。
「貴方、もしかして……マッシブスパーキン家の者なの」
「フフフ……」
「な、何ですって!? ですが、シャンティ様、かの一族は、罰を受けて……」
「傍系までは及んでいないわよね。例えば、養子先とか」
……この笑い方は、ライくんに似ていないわ。
「貴方に、助けて頂きたいのです」
「助け……?」
「ええ。貴方に、もう一度……精霊の封印を受けてくださいませんか。我が一族が返り咲く為に」
「あら、興味深いわね。……詳しく聞かせてくれるかしら?」
予想以上に碌でもない話が来ちゃったわね!!
私が精霊に漬けられて、何でマッシブスパーキン家が再興出来るのよ!
そもそも、ピカ……カゲッテーラ様が伯爵してるじゃないの! 返り咲くってことは、前の華やかな……華やかというかムキムキな地位を謳歌したいってこと?
何とかして、油断を誘わないと。
怪しい近衛兵ですね。




