不足なことだらけ
お暑い中、お読み頂き有難う御座います。
「ふう……心臓の高鳴りが止まないわ……」
「お嬢様、お労しい……」
「握力鍛えと携帯重しをお持ちしましたわ」
やはり、推しは、美しかった……。
あんな初対面かつ、散々なお話し合いだったけど。
はあ、凹んで動悸息切れがやまないわよ。
でも……誤魔化す為に運動不足を理由に上げたら、侍女達がこぞって筋トレグッズを持ってくるようになってしまったわ。
「お嬢様、一番か弱いお品ですわよ」
「十歳児から使えるお品ですわ」
「しかし……このデザイン、何なの?」
ケーキの箱みたいな派手な重しね……。えーと、説明書によるとリボン部分を両手で持ち肩幅位に開いた足を踏ん張り、ゆっくり振り回す……。……重いわね。
「此処最近新進気鋭の美術家、エルェガンティーのお品ですわ」
「エレ……? 何? マダム・チャレーナじゃなくて?」
「マダム・チャレーナは他国ですが、エルェガンティーは我が国の美術家ですわよ」
「へー」
美術家って筋トレグッズもデザインするもんなの?
未来ってよく分からないのね……。そもそも美術家って何なのかしら。サッパリ分からないわね。
まあ、マダム・チャレーナもドレスメーカーだし……。そういや、昨日の新聞に『この前弟が結婚した時のドレス』とやらが載ってたわね。
花嫁衣装、あの国の伝統的な植物モチーフのオレンジ色のドレスだったかしら。変わってたわね。
私もオレンジ色のドレス作らせようかしら。前の頭の色だとけたたまし過ぎて避けて通ってたしね。
ピンク髪……やはりファッション的に上級だわ……。美女なら違うんでしょうけどね……。
「お嬢様、スパークル候爵が来られました」
「スパークル……えっ、ピカッテールさ……じゃなかった。誰?」
えーと、当代スパークル候爵って誰だっけ。ピカッテール様のお父上?
……記憶になさすぎるわ。もうちょっと貴族年鑑を熟読して置くべきだったわ……。
「ライナル・スパークル様です」
「あっ、そうだったかしら。って、ええ!? ……何時の間に爵位を継いでいたの?」
「お、お嬢様が、お目覚めになるひと月程前でしょうか……」
「ええー……聞いてない……」
「な、何と……何と」
何でご説明してないんだって使用人達が後ろで責任の押し付け合いしてるけれど……此処でキレてはパワハラ上司よね。
……そう、私は誇り高きソノサン公爵令嬢……。優雅に、そして穏やかに……。
「良いのよ。私が知らない十年前の出来事をつぶさに語る、気の利いた手段が無かったのよね? いい加減説明が有ってもいいようなものだわ」
「も、も、申し訳御座いません!!」
しまった。
本音がズバッと口から出てしまったわ。
でもね、もうそろそろ良いと思うのよ。悲しげにヒロインやれる性根ではないのよ。
……まあ、仕方無いわね。私って打たれ弱いのかもしれないわ。
「という訳で、ライくんを締め上げるわ。いい加減、もう可哀想光線を浴びるのは飽き飽きなの」
「ひ、姫様……。何と雄々しきお志」
何でちょっと嬉しそうなのこの子は……。
下から睨みつけられて大変な笑顔ね。何なのよ志って。関係ないわよ。
入ってくるなりイチャモン付けられたようなモノなのに……。
「ええと、姫様。先ずは再従姉が無礼をしたそうで、申し訳ありません」
「謝れる子はまあ、合格ね」
「へへ、姫様に褒められました」
……ちょっとキュンと心臓が鳴ったじゃないの。
あの泣いていた姿しか知らなかったから……、笑っているのを見るのは嬉しくて、くすぐったいものね。
で、でも私の方が見目は兎も角、歳上なのよ。絆されないようにしなきゃ。でも、責めすぎないように……。
難しいものなのね。
「色々とお話をしたいのですが、その前に……姫様に申し上げます」
「何かしら」
「姫様は、俺のことを……お嫌いでは無いですか? お恨みでは無いでしょうか」
す、ストレート!
この子、こんな愚直で候爵業務をやっていけるの!?
そんな潤んだ目で見られた所で……所で! 罪悪感と庇護欲が育ちそうじゃないの。
「わ、悪い子ね。そんな悪い子とは思って……無いのだけど、いや、ええと……」
「え? どっちでしょうか」
「わ、私の事は後でいいのよ! ……いや、後で良くないわ。ええと、その……」
「ひ、姫様、お、落ち着いてください」
「ええ、落ち着くわ! だからその、何が起こっていたのか話して頂戴!」
へ、変な汗が吹き出してくるわ。挙動不審になるし、思わず鼻を触ったら滅茶苦茶手がテカってるし!
くっ、……侍女達がハンカチ片手にオロオロしてるわね。嫌だわ。どれだけ顔がテカってるのかしら……。
ライくん来たばかりだけれど、化粧直しに速やかに退室したい!
「姫様……。姫様は相変わらず輝かしくて」
「かがや……え、顔が?」
「お顔も優しくて素敵です」
……どうもライくんの目には、変なフィルターが掛かってるようね。勘違いの愛って、強ち間違っていないのかしら。うっ、気分がダダ下がりね。
「姫様、何故そんな凹んだお顔を……?」
「い、いいの。続けて頂戴」
……こういう時こそ王族スマイルよ! じ、自信無いけど!
シャンティの優雅に振る舞える時間は十分程度です。




