思っていたのとは違うもの
お暑い中、お読み頂き有難う御座います。
シャンティが推しから先制パンチを喰らいました所から、始まります。
「貴女は、再従兄弟の、いえマッシブスパーキン家の境遇をご存知でないでしょう?」
「え、ええ……」
そりゃ知らないわよ、どうしましょう。
推しから憎まれているのも、だけれど。ライくんを返せって言われるとは……。
確かに未だ何の愛も育めてはいないけれど、何か……何かモヤモヤするのよ。
……その仰っしゃりようは、まるで。
ライくんと、その。
親族愛よりも濃いものを築いて……いやいやいや。
ピカッテール様、いえ、カゲッテーラ様は……御歳お幾つかな。私の歳より5つ上。三十路でらっしゃるわよね。
控えめな赤いドレス姿なのに、神々しいイケメンぶりが後光となって、実に眩いわ。
頬を染めてる場合じゃなくてよ。
も、モヤモヤする。
ヴェールに包まれた事柄が多すぎて、知らないことだらけ。それなのに、何も知らず混乱する私に決断させようって……傍若無人ではないのかしら。
「……私、伯爵に何かしたかしら」
「いいえ、何も」
その割には言葉の奥に刺々しさを感じるんだけどなぁー? 気の所為ー?
「ライくん……ライナル・スパークル様に見初めては頂いたけれど、私個人は彼を理解する間も無く精霊つ……精霊によって時を超えることになったわ」
「……もしかして、精霊は見えましたか」
「え? 精霊って見えるの?」
「人によりますが」
ひ、人によるんだ。見える人居るんだ……。
「もしかしてライくん、ライナル様は」
「それは私の口から申し上げることでは御座いません。シャンティ様、あの子を解放してください」
お、押しが強いな。眼力も強くて頭が吹っ飛びそう。でも、でもね。
「お断りしますわ」
「何故。貴女に勘違いの愛を捧げているのですよ。そのせいで十年も眠りにつく事になったのに」
「その辺りの詳しい説明が欲しいところですが、兎に角。
ライナル様との交流を止めろとのお願い、お断りしますわ。マッシブスパーキン伯爵」
「何故。貴女の為にならないのに」
「大した交流も出来ていないご縁は、切り捨てません。ましてや他人のお言葉でそっぽ向くだなんて、ポリシーに反しますの」
「……」
「交流をお断りするにしろ、このご関係を進めるにしろ。私は、ライナル様とお話し合いの上決めます」
いや勿論色々言いたいことはあるわよ。説明もないし説明もないし説明もないし!
でもね。
差し出口突っ込まれて関係を終わらせるだなんて、幾ら推しの言葉でも納得出来ないわ。
ライナル様……ライくんが何だか分からないにせよ、私を望んでくれた訳でしょう?
それを無下にしろだなんて、そんな事しないわ。
親戚だか何だかよく分からないけれど、身勝手よ。
「後悔しますよ」
「ライナル様を一方的に無下にする方が、後悔しますわ」
あの青い瞳を思い出す。
泣きじゃくっていた幼い日の瞳。
そして……かなり慌ててはいたものの、真摯に私を見つめていた、青年の瞳を。
……何か忘れているような。
「本当に、後悔しますよ。貴女の御為に申し上げました」
……微笑みながら圧を掛けて、帰っていかれてしまった。
うう、……悪く思われたでしょうねえ。
「……お、お嬢様……」
「……あ、足が……」
ピカッテール様いえ、カゲッテーラ様が後光差しそうなお姿でお帰りになった後。
いやもういかん。凹んでる場合じゃないのよ。もう、推しは止めるわ! だから、あっちに敬語をつけてはならんのよ。私自身は低いけど王位継承権有るんだから!
でも……体は正直ね。足が竦んで……ガクガクブルブルしていたわ。嬉し震えなのか、ビビり……!?
「いいえ、ビビってないわ。これは、運動不足よ!」
「た、確かに……精霊漬けに為られてましたしね……」
同意されると同意されるで腹立たしいわね!
止めろと言われると止めたくなくなりますね。




