未来は意外と見慣れたものだらけ
お読み頂き有難う御座います。
シャンティは疑問解決に挑みます。
このままではいけないわ。
幾ら私がか弱き&やんごとなき公爵令嬢であろうとも、人任せは良くないわ!!
……と言うか、本心はガッツリ人任せにしたいわよ。
だって、私ったらタイムスリップしてんのよ。不安極まりないわよ。心細くてガタガタよ。ええ、昨日はぐっすり眠ってご飯も美味しいけれど、それはそれなのよ。私は繊細な公爵令嬢なんだから。
でも、ここは未来……なのよね?
馬車の帰り道に見た限り、あんまり変わらないわ。
10年も経てばこう、文化も飛躍して……空を飛ぶ馬車とか、瞬時に着替えられるドレスとか、天まで高く伸びる建物とか……そういう未来的な物は無いみたい。
うーん、意外とタイムスリップって微妙なのね。
家が若干リフォームされてるくらいかしら。窓の木枠が若干違うわ。私が眠って直ぐに修理したのか、新しく……はないわね。
で、お父様お母様は何でも泣きすぎてお疲れになって、朝食は私ひとり。ふわふわなのに火をちゃんと通した卵料理に、根菜も柔らかく煮込まれた野菜スープを美味しく頂いたわ。
……水分補給とか、大丈夫なのかしら。まあ、使用人は山程居るし、元々居る面子も頼り甲斐が……出てるでしょうしお世話は任せておきましょう。
流石に昨日の繰り返し……号泣意味不明なまま劇場は今やりたかないわ。疲れるのよ。
「取り敢えず、着替えようかしら」
「お嬢様、此方が流行りの型でございます!」
「最新作ですわ!」
ドヤ顔でバッサアと広げるのは良いけれど、見たことある馴染み深い形のドレスねえ。
どうも私が眠っている間、ドレスを作ってくれていたみたい。それは有り難いんだけれど。
「……去年流行ったドレスよね、コレ」
「えっ……去年!? あ、じゅ、10年位前、流行りましたっけ……」
「えと、えーと……」
流行が巡り巡ってるのか、ドレスも未来感が無いわ。
この、腰にバッスルとかの詰め物してボリュームを持たせたドレス、また流行ったのね。布のパニエならまだマシで、ボリューム出す為に金属製品やら木製のバッスルが流行って、高齢御婦人が軒並み腰痛になったというのに……。
「で、でもお嬢様! 新種の染色技術が発明されまして鮮やかな赤が……! 今ならその美しい薄いピンクの御髪が映えますわ!」
「……そうねえ」
赤かあ。
王族が避けてきた色よね。けたたましさが薄まると思いきや、パワーアップするから。
この薄いピンクじゃあ、着放題かあ。
緋色に朱色に真紅……。何時の間にか広げられたサンプル布にちょっと心躍るわ。
「こんな鮮やかな赤、顔が負けないかしら」
「そこは……お化粧品も新作が御座いますから! ほら、そこの三段目の引き出しの白粉を用意して!」
「すみません主任!」
成程、技術でカバーせよと。
……まあ、未だ顔色悪いものね。貝細工のコンパクトが……見たことのないデザインだこと。
しっかしダルいな。私、あのピンクの粉に生命力でも吸われたのかしら。その辺の説明もないし……。
一体誰に聞いたら良いの。
伯父様……陛下とか?
……流石に、身内と言えどホイホイ謁見できる方ではないわね。
確か、前は……10年前は謁見願い出したら10日掛かったかしら?
精霊に詳しい人……。
ライくんを呼べればいいけれど、両親が怒髪天を衝いてるぽいし。
「そうだわ、スパークル家……。いえ、マッシブスパーキン家の当主様……ピカッテール様」
あの方なら、納得行く説明をしてくださるかも。
……初対面だけれど。
「え、マッシブスパーキン……カゲッテーラ様ですか?」
「違うわよ。ピカッテール様よ。精霊の御使者の候補だったでしょ」
「それがですね、お嬢様……。改名されまして」
「そ、そうなの」
何でそんな暗そうなお名前に……。
輝いてそうなお名前が嫌だったのかしら。
「その、御結婚されまして」
「……そ、そう……。
そりゃ10年も経ってるものね。しょ、ショックだけれど……ショックだけれど!
……うう、時は巻き戻らないわ……」
「それ以前の問題でして……」
これ以上何が問題なの。
憧れの方の結婚より、何の問題が……。
あ、ライくんからのアプローチはちゃんと覚えてるわよ。それはそれ推しは推し。引き際は弁えてあるの。
「カゲッテーラ様……当時ピカッテール様は、精霊の御使者様のご生家であるマッシブスパーキン家をお継ぎになられまして」
「ええ、そうね」
そこまでは聞いてたわ。あわよくば御婿様に来てくんないかな〜って思ってたけれど。
「精霊の御使者様のご両親とご兄弟を騙る者共の罪を暴かれまして」
「……んんんんん?」
「神殿の神官殿と御結婚なされ……」
「ブハッ! え、まさかの同性婚!? 神殿の神官って、巫女じゃ無くて? しかも、神職って結婚出来たの!?」
「いえそうではなく……。本来の性別もカミングアウトされました」
「ほ、本来の性別ぅ!? 待って! 情報量が多すぎる!!」
其処は小出しにして欲しかったわよ!!
……え、ということは……ピカッテール様は、御婦人でいらしたの!?
あんなにイケメンでいらしたのに……!?
で、でも。
遠目からキャーキャー歓声を上げてたけれど……間近に見たことが無いわ!
殿方の服装をされた、美女……!
……それはそれで、推せる……かしら。
マッシブスパーキン現当主はピカピカした名前が嫌いだったようですね。




