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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第2章 奴隷の国編
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92.出会いの後は…

俺の目の前に深々と頭を下げる男がいる。


『開拓村ではすまなかった』


この男は靴磨きの第一号者となった後、そう言って突然謝罪の言葉を言ってきた。


(こいつもあの場所にいたのか!)


「謝って済むことじゃないのは分かってる…!皆さんの平穏を荒らしておいて都合の良い事を言っているのも自覚してる!…でも、すまなかったッ!」


「…………………」


「…………………」


「…………………」


「…………………」


「…………………」


俺は、しばらく何も言わなかった。


いや違う。

言わなかったんじゃなくて、考え込んでいて声を出すのも忘れていたのだ。


(…こんな人いたっけ?)


思い出せない。

ゲイルの悪人面が際立っていて印象が薄かったとしても、この人以外の顔は覚えている。

でも、この人の顔はどうしても記憶の中に無い。

したがって怒りも湧いてこない。


「…あなたもあの場所に?」


自分がロイとしての人格を取り戻したのを話すかどうか迷ったが、おそらくさっき俺が魔力操作をした事がこの人にはバレている。

敢えて騒ぎを起こさないように対応してくれたこの人であれば、話をしてみたいと思ったのだ。


「…やっぱり記憶が戻ってたんだね。ボレスさんにはバレてなかったけど、君くらいの年であんな一瞬で凄まじい魔力操作ができる子なんて中々いないから、ひょっとしてと思ったけど…。まずは、自分を取り戻すことができて良かったね、安心したよ」


心からホッとした、そんな表情をしていた。


どうやら悪い人ではなさそうだ。

会話にも応じてくれそうなので色々聞いてみようか。


そう思って改めて自己紹介すると、ペニーだと名乗ってくれた。

すごく礼儀正しい人だった。


ゲイルの部下とは思えないな。


「あの、どうしてもあなたの顔が思い出せないのですが、本当にあの場にいたのですか?」


「どういうことだい?」


「あそこで父をいたぶってくれた人の顔は全員覚えてるんです。でも、あなたの事はどうしても思い出せなくて…」


「ああ、それはその時には場を離れていたからね。キッド副長と一緒に村人たちを追いかけたんだ。当然、途中でやめたけどね」


「やめた?どういうことですか?」


「うちのゲイル隊長覚えてる?あの人は村を襲うとか本当はしたがらないんだよ。一番に部下の安全を考えて、仕事としてどうしてもやる必要があるときにはその命令に従うってスタンスなんだ。大抵はのらりくらり言い訳して襲った人たちも逃がしてしまうんだ」


そんなことしてたのか、ゲイル。

()()()()も悪い、()()()()4()K()男のくせにな。


ってことは、あの時ガナイをリンチしていた連中も、ミジョウがいたから嫌々やってたのか?

まあ、だとしても簡単に許せるものではないがな。


「あの時も、途中まで駆け出して行ったけど何もしていない。安心していいよ」


気がかりではあったけど、皆は無事だったか。

父さんは元気にしてるってゲイルが言ってたし、被害が出てなさそうで本当に良かった。


あれ?


そういえば、前にゲイルとやり合った時父さんはピンピンしてるって言ってたな。

なんであいつはそんなこと知ってたんだ?

あとで聞いてみるか。


「襲われた俺が言うのも変だけど助かりました。それで、アザルトっていうのは?」


「スタークスが騎乗していたあの狼の事だよ。赤ちゃんがお腹にいたでしょ?」


「ああっ、あのバカ犬!」


そんな奴もいたな。

俺を力いっぱいぶん投げてくれた、頭のイカれた獣だ。


「バ、バカ犬って………アザルトは魔狼の中でも賢い方なんだけどな。何かあったの?」


「ええ。あんな非常識なやつはバカ犬で十分です。元気そうでした?」


「ああ。おかげさまで母子ともに健康だったよ」


「それは何よりです。今はこちらに?」


「いや、僕らとは一緒に来なかった。どこかに行ってしまったんだ」


「そうですか…」


帰ってこないとはどういう事だろう。

人里など襲っていなければいいが…。


「とにかく、本当にすまなかった。僕で力になれる事があれば力になるよ」


「いえ、大丈夫です。ただ、人格が戻ったことは他の人には内緒にしてほしいです」


「そうか、そうだよね。分かったよ。知らなかったことにしよう」


「助かります」


すごく話の分かる人だな。

まだ全幅の信頼を置いたわけではないが、ある程度なら信用してもいいかもしれない。


「じゃあ、また女の子に会いに行くときには寄らせてもらうよ」


「ぜひ、またお越しください」


そう言って俺たちは右手を出し合って握手をした。






―。





「握手をして………なんでここに?」


気付いたら修練宝塔のスキル空間でおむつ一丁。

目の前には麗しのエマさんが立っている。


(こ、これは何というか…)


「来たか、ロイ」


「…今日もよろしくお願いします!」


「うむ」



平静を装って普通に挨拶したが、今日のエマさんは身体のラインがくっきりと分かるような真っ白のワンピースを着ている。

腕を組んで仁王立ちしているエマさんを見上げている関係で、もう少しでエマさんの秘境が……!


「…シメるぞ?」


「ヒィッ!?ごめんなさい!」


エマさんのバックに怒りの炎が上がった。

恒例の土下座平謝りである。


「次はないと思え?」


「はいいぃぃぃ!しかと胸に心得ましたぁ!」


頭を地面に打ち付けて、どうにか許してもらえた。


(でもワンピース姿もいいなぁ…)


眩しそうにエマさんを見ていると、スキルのナビゲーターとして早速案内してくれた。


「今回は靴磨きの客だったペニーが身に付けていた指輪に呼ばれたようだ」


「あっ、そういえば指輪を身に付けていましたね。ペニーさんにしては少し静かな印象の装飾だと思って見てたんですが、オシャレ用ではなく装備品だったんですね」


「うむ。ちなみにこのペニーはすごいスキルをたくさん持っている。上級投擲、上級隠密、特級短剣技、特急索敵、上級男子を持っているな」


す、すごい万能キャラだ。

もしかしてゲイルの仲間ってすごいやつらが多いのか?


しかし、それよりも気になる物がある。


「…上級男子ってなんですか?」


「これは男としての嗜みを覚えることができるスキルだ。女性の扱いにも長けたモテ男になれるようだな」


なんと、ペニーさん!

そんな夢のようなスキルをお持ちだとはッ!


そんなの、上級男子スキル一択で決まり……


「ロイ。よもや貴様、上級男子のスキル取得を選択するわけではないだろうな?」


「えっ?」


だ、ダメなの?


「まあ、お前の選択に任せるが……」


ま、またエマさんの背中に炎が!?


(任せるとか言いながら、こんなの選択権ないじゃない!)


「…と、特級索敵スキルでお願いします」


「うむ。お前の事を信じていたぞっ」


(うええーん!上級男子ほしかったのにぃ!)


俺の夢ははかなく破れてしまった。

さらば、モテ男ロイよ…。




少しの間、泣きながら地面を叩いていたが、どうにか気持ちを持ちなおして立ち上がった。




「よし。では行くのだ、ロイ」


「…わ、わかりました」


俺はトボトボとペニーの待つ修練の塔へ足を向ける。


だが、ふと思い出したことがあってエマさんに振り向いた。


「ペニーさんのところに行く前に、ちょっとラウルに会ってきます」


「むっ、あいつのところか。何か考えがあるのか?……まあ、いいだろう。上級男子スキルを貴重な修練宝塔で取得するよりはよっぽどマシだ」


ラウルの方がよっぽどマシって、そんなに上級男子のスキルが嫌いなの!?

軟派な男は嫌いだとかそんな話なのか?


「じ、じゃあまず先にラウルのところに行ってきます。ペニーさんのスキルを取得したら強制的に現実世界に転送されちゃうんで…」


「ああ、そうだな。行ってこい」


こうして俺は、ラウルの塔に先に行くことにした。

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