9.修練宝塔は奥が深い
俺はこたつでお茶を飲みながら、スキルについての説明を再度受けている。
おしめだけを身に付けた赤ん坊が正座をしてお茶を飲んでいる姿はなかなかに見ごたえがあるに違いない。
「スキルについては胎児のときに黄色いあいつから教わっただろうが、
確認の意味を込めてもう一度教えてやろう。」
「はい!」
黄色いあいつ。
そう呼ばれてるのか、
と思いつつエマさんの説明に俺は元気よく応える。
初めてのスキル発動にワクワクしているのだ。
「修練宝塔のスキルとはこのようなものだ。」
エマさんは言う。
誰にも愛用の道具というものがある。
料理人には使い慣れた包丁―。
野球選手にはグローブやバット―。
そして騎士には自らの命を預ける剣と盾―。
そんな愛用品には使用者と共に歩んできた経験が刻まれている。
修練宝塔は道具に刻まれた経験を呼び起こし、
経験値をスキルとして習得するための修行ができるのだという。
エマさんが遠くの方を指さして説明を始める。
「あそこに塔が見えるだろう?あそこが修練場所となる。
一つの道具から発生する塔は一つだが、
道具によっては複数のスキルを得られることもある。」
「えっ?一つの道具につき一個のスキルじゃないんですか?」
「それは違うぞ。
例えば火の魔法を習得しようと思ったら、まずは魔力の操作を覚える必要がある。
ある一定の魔力操作スキルを習得した後、本格的に火魔法の修行が始まるというわけだ。」
「じゃあ、難易度の高い火の魔法を覚えようと思ったら、
難易度の低い火の魔法から順番に修行して習得していく必要がある、と。」
「その都度、高難度の魔力操作修行もついて回るがな。」
おおう…。
険しい道のりになりそうだ。
「厳しいようだが楽にスキルを手に入れることなどできん。
誰もが人生で限られた時間の中で四苦八苦しながらスキルを磨いている。
時が止まるこの空間で修業できるのだ。ありがたく思え。」
確かにそれはその通りだ。
やろうと思えばどんなスキルだって身に付けることができるし、
易々と手に入れたスキルなど、自分は碌なことに使わない気がする。
「はい!この力を与えてくださった全てに感謝します!」
「うむ。それで良い。
早速だが、修行に入ろう。お主の母が塔で待っている。」
「えっ?母さんがいるんですか?」
初耳だ。
「お主の母親であるミアの道具でスキルを発動したのだ。
当然、その師はミアになるに決まっておろう?」
「エマさんは?」
「我はただのナビゲーターだ。」
ひいぃッ!
女神ミアでありますように!
どうか般若ミアでありませんようにッッ!
「わ、分かりました…行ってきます…。」
「うむ、しっかりと励むがよいぞ!」
ここで、ドキドキしながらこたつから出た俺は、
最後に一つ、気になっていたことをエマさんに聞いた。
「あの、エマさんいいですか?」
「なんだ?」
「この肉体に、前世の感覚があるというのがものすごく不思議なんですが…。」
「そういうものだ。時期慣れる。
今はまだ前世の感覚が残っているようだが、身体と意識が馴染んでくればその感覚になるだろう。」
「…15歳になったら15歳の自分がここに居るんですよね?」
「感覚はな。肉体イメージは最初にここに訪れた姿で固定されるから、
お主がジジイになってもスキル発動時は今の赤ん坊の姿だ。
だが成長した能力値は都度反映されるから心配するな。」
なんだよ、その訳の分からない設定は!
これから俺は一生おしめの赤ん坊で修業しなきゃなんねえのかよ!?
「ごちゃごちゃ何を考えているのか分からんが、
何も心配することはない!さあ、早く修行に行ってこい!」
…自信満々の笑顔で親指をグッとされても困るんですけど、ね?エマさん?