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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第2章 奴隷の国編
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83.そして真実に辿り着く

ガーディさんの診察を終えた後、自分で作った水で喉を潤し、一息ついたところでガーディさんに向き直る。


「さて、お待たせしました。診察結果をお話します」


「うむ」


「ガーディさんの左足についてですが、アキレス腱に特殊な()()が施されているようです」


「封印、だと…」


「はい。アキレス腱のある一か所に集中して、腱の繊維一本一本すべてに極小の封印……呪いと言ってもいいかもしれません。魔力なのか負荷なのか分かりませんが、何かしらのエネルギーに反応して、一瞬だけそれを無力化するようなものがありました。試しに私がそれに向けて魔力を流してみると、消化されるかのように俺の魔力が消え去ってしまいました」


「なんと…」


俺は、驚いているガーディの左足に指を当てて話を続けた。


「その箇所は、ここですね。おそらくですが、ここはミジョウに切断されたところではありませんか?」


俺の質問に、ガーディさんは苦虫を噛んだような顔をした。


「お前の言う通りだ。ミジョウに切られたのは、まさにその部分だ。確かに、身体強化がそこだけ上手くいかない時がしばしばあったが、しかし、どうやってこんなことを…」


「ミジョウの攻撃を受けたときに、何かしら細工をされたとかは考えられないんですか?例えば、種子のようなものを植え付けられるとか?」


「いや、流石のミジョウもあの一瞬ではそんな手の込んだ事はできないはずだ」


「………そうですか」


ミジョウの仕業ではない。

しかし、そうだとするとこの細工はどこでされたんだ?


中級魔力操作で総魔力量や魔法発動の気配を隠蔽していても看破してしまうガーディさんである。

そんな達人の目を掻い潜ってこんな仕掛けができるものなのか?


「「…………………」」


ガーディさんもおそらく同じような事を考えているのだろう。

二人そろって押し黙ってしまった。


(闘技場での戦闘。ガーディさんは左足をミジョウに切られ…………切られ?)


「ガーディさん?闘技場でミジョウと闘い、足を切断されたんですよね?」


「ああ、そうだが…」


「その後はどうなったんですか?」


ガーディさんは少しだけ思い出す素振りを見せたが、すぐに答えてくれた。


「…あの後は、そうだな。すぐに体勢を整えようとしたが左足が無くなっていたから、逆に態勢を崩してしまったんだ。ほんの一瞬だったが、その隙を見逃すミジョウではなかった。斧槍の刃を首筋にあてられ、それで俺が降参したんだ」


「そのあと、ミジョウと接触したりはなかったんですか?」


「ないな。俺は待機していた治癒部隊に担架で運ばれ、治療部屋で治療を受けただけだ」


そうか。

何も無い、か。


「……………」


いや。


待て。


()()、なにか引っかかる。


「………………その治癒士、怪しくないですか?」


「治癒士、だと?」


ミジョウが直接やっていなかったとしたら?

国のトップの座に居れば、有能な影の部下の一人や二人抱えていても当然じゃないのか?


「その治療中、不自然なことはありませんでしたか?」


「いや、特には無いと思ったが…。寝ている間に治療は終わっていたしな」


はて。

治療中寝ていただと?


普通なようでいて、ちょっとおかしくないか?


ガーディさんに勝つほどのミジョウの腕で切られた傷なら、極端な話、放っておいても切断面どうしがきれいに繋がるんじゃないのか?


それにだ。

地球の医者による手術(オペ)ならまだ分かるが、いくら足を切断された大怪我だったとしても、国お抱えの治癒士による治療にそこまで時間がかかるとも思えない。

闘う事が仕事の戦士たちの事を思えば、迅速に完治させてすぐに次の闘いに身を投じてほしいはずだしな。


「その治癒士の治療、他の治癒士より時間がかかっていたということはありませんか?」


「そんなことはないと思うが…」


「ミジョウと何らかの繋がりがある可能性はどうです?」


「そんなことは噂でも聞いたことがないな。そもそも、その二人が話をしているところも見たことが……」


そこまで言って、ガーディさんは口を噤んだ。

そして、独り言のようでありながら、俺にも聞こえる呟きで、湧き上がってきた違和感の正体を手繰り寄せている。


「確かに、二人が話しているところは見たことがない…。だが、ミジョウとの闘いで対戦相手がけがを負った時、必ずと言って()()()の名前を出して指名していた。そう、俺の時も……」




”治癒部隊、早く治療を頼む!そうだな、【クロコ】に任せておけば間違いないだろう!クロコを待機させておけ!”



ギリィッと奥歯の軋む音が聞こえた気がする。

そんなガーディさんの思考の隙間に入るように、静かに声をかけた。


「どうして接点のほとんどないミジョウは、その治癒士を指名するほどの信頼を寄せるのでしょうか?」


ガーディさんが顔を上げた。

今までに見たことが無い程、目が吊り上がっていた。


「…それ以上言わなくていい、ロッカ。おそらくお前の予想通りの事が起きている。ミジョウと治癒士クロコは裏で繋がっている。そして、自分の地位を脅かす可能性のある者と闘い、怪我を負わせた後、クロコが治療の際に何らかの細工を施すのだろうっ。

 そうだ、きっと俺だけじゃない!あいつも、そういえばあいつもあの後…!」


ガーディさんは拳を地面に叩きつけて悔しがった。


思い当たる節のある戦士たちの名前を呼びながら、肩を震わせて怒りを燃やしていた。

きっとガーディさんと同じように、ここ一番という大事な場面でミスを犯してしまうような小さな小さな爆弾を体に植え付けられてしまった人たちなのだろう。


俺は震えるガーディさんの拳にそっと手を置いた。


「今はまだ、ガーディさんの封印?呪い?どちらにしても、それを解く手立てがありません」


ガーディさんが険しい顔をしながら、怪訝そうに俺の顔を見た。


「………何が言いたい?」


「今はまだ何もできないけど、俺には他人の愛用していた武器や道具から、その人が持っていたスキルを習得するという特殊能力があるんです!必ず、その身体を治す方法を見つけます!だから、そしたら…!」


「お前……」


「一緒にミジョウを殴りに行きませんかッ!?」


俺は、拳を天に向けて突き上げたのだった。


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