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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第2章 奴隷の国編
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80.娑婆の空気を堪能する暇もなく

俺は今、修練宝塔のスキル修行を終えて、現実世界に戻ろうというところだ。

身体が徐々にスキル空間から引き戻されつつある。


それを見守ってくれるのはエマさんだ。

教師の服は既に着替えて、いつものチャイナドレスのような装いだ。


(やっぱこの服は似合うなぁ。この服に鞭って………すげえ映えるし)


と、エマさんが知ったら怒られそうな事を考えてしまう。


ただ、決してそっちの趣味に目覚めたわけではないからな!


「では、しっかりやって来い、ロイ!」


「はい!行ってきます!」


こうして俺は、2年ぶりに現実世界にロイとして戻ることができたのだった。





―。





「きさま、何者だ…!」


「だ、か、らッ!さっきから!ロッカだって……言ってるでしょう!?」


「嘘をつくな!その魔力量、そしてその豊富なスキルと熟練した体捌き!ロッカがそんなことをできるはずがない!大体さっきはロイだとか言ってなかったか!?」


「ロッカであって、ロイでもあるんですーッ!」


「なんだそれは!?分からん、ロッカを返せ!」


俺は現実世界に戻った瞬間、ガーディさんに襲われた。


魔力操作は中級に上がっていたから俺の魔力を隠蔽できていたはずなのだが、それすら飛び越えてガーディさんは俺の実力を看破したらしい。


気絶前のロッカと目覚めた後の今のロイとでは、まるで別人だったので怪しんで攻撃を仕掛けてきた、という事なのだが…。


「うおお!土氷盾!」


ガキン!


「これを防ぐか!上級に達するであろう体捌きもさることながら、その魔法の数々!?そうか、俺を騙していたんだな、ロッカ!」


「違うって言ってるでしょ!?話を聞いてくださいよ!」


俺は、土魔法と水魔法を組み合わせて、ガーディの手刀を防ぐ盾をなんとか創り出す。


「むぅん!蛇突撃!」


「ふがぁッ!?」


その盾さえも、蛇の動きのような変幻の突き技で簡単に破られてしまう。

間一髪、眉間にあたるという間際で無理やりのけ反って攻撃を躱す。


「ウグッ!?」


2年間ろくに鍛えていない状態で無理をした反動か体が悲鳴を上げる。

だが、それに構ってはいられない。


「久々、ロイケルポーション!そして、土氷剣!」


すぐさま回復薬を生成し、体を正常な状態に戻し、間髪入れずにさっきの土氷盾の応用で剣を作り出す。

硬質の芯を土魔法で、そしてその周りを氷で覆い剣を形作った。


「俺に剣を向けるか!やはり貴様…!」


「違うって言ってんだろうが!盾じゃ防ぎきれねえから、剣で受け流すしかないんだよ!つーか話を聞いてくれよ、ガーディさん!」


「その口のきき方……やはり貴様!」


「゛やはり゛っていう、このループやめろやぁッ!」


それから何合打ち合ったのだろうか。


間一髪の雨あられ攻撃だったが、剣を氷で覆ったのはどうやら正解だったようだ。

攻撃用ではなく、受け流し用にしていたため、表面を少しだけ水が浮く程度に溶ける仕様にしたのだが、それで攻撃を逸らしやすくなり、大分助けられていた。


上級剣技、魔力操作による身体強化、防御特化の武器を携えて、ようやくギリギリ生き延びているところを見ると、ガーディさんの武術は、どうやら上級を越えた特級以上のようだ。


「蛇拳・虎舞羅!」


何百という変幻自在の突きが一斉に襲い掛かってくる。


ガシュッ


ガシュッ


「うぐぅあッ!」


単発の攻撃でもやっと受け流しできるというレベルの攻撃を、これだけの数繰り出されてしまえば流石に対応しきれるものではない。

俺は体中にその突きを被弾してしまった。


「粘ってはいたがな、これを喰らってしまっては、もはや終いだな」


ぐらり。


「し、視界が…!手足も痺れて…」


毒の攻撃。

万全の状態であっても、勝機の一分も見いだせていない状況で毒を喰らうというのは致命的だった。


「この毒を喰らったら終わりだ。せめて楽に死なせてやろう」


そう。

終わりだ。


「…普通の人間ならな!だが、俺はまぎれもなくロッカだ!このスラムで2年生き延びたんだ!ここからが俺の

本領発揮なんだよ!」


(まずは、この上級水魔法で回復量を上げた回復薬を体内で生成……プラスで下級治癒魔法で毒素を緩和…)


「極めつけはこれだ!ロッカの血の滲むような毎日の結晶を目に焼き付けろ!いくぜ、中級悪食スキル・猛毒ブースト!」


「なっ!?」


悪食スキルで毒素を解毒する際に発生するエネルギーを集約、そして爆発力に変換。

剣を捨てて、足にありったけの力を集めた。


「分かってくれないなら、仕方ねえ!一発殴って止めてやるよ、ガーディさん!」


ゴギャァ


「ちっ。後ろに跳んでまともには喰らってくれないか。ま、当然かな…」


渾身の一撃もガーディさんには浅くしか入れられなかったようだが、それでも頭に登った血を冷ます事くらいはできたようだ。


「お、お前…?」


荒れ狂う暴風のようだったガーディさんの勢いが止まった。


「ガーディさん。俺はね、間違いなくロッカなんですよ。ここ一か月毎日あなたの持ってきてくれたご飯を一緒に食べたね。

 とにかく、こんなところで死ぬわけにはいかないんです。ミジョウのクソ野郎をぶん殴って、家族に会わなきゃならないんですよ」


俺は少しだけ痛む右拳を擦りながら、片膝をついて態勢を整えようとしているガーディさんを真っすぐに見つめた。


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