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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第2章 奴隷の国編
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77.特別授業で対策を

「さて、それでは講義を始めるぞ!」


「はい!よろしくお願いいたします!」


修練宝塔のスキル空間に俺の声が鳴り響く。

今、俺は机と椅子に座って黒板の前に立つエマさんと向かい合っているところだ。


修練宝塔のスキル空間では、経験済みのイメージを具現化できるという特徴がある。

それを使って、学校の教室のように教壇と椅子と机、黒板を具現化したのだ。


狼騎兵たちのボスキャラであるミジョウに敗れてから、今に至るまでの経緯やミジョウのスキル、ロッカという存在についてなど、分からないことが山済みなので、皆で整理をしようという事になったのだ。


黒板や教壇の具現化云々は、はっきり言って雰囲気づくりだけであるのだが。


「ロイの無様な負け犬姿についてはさっき散々叱ってやったからな。それについては尾を引かないように!いいな、ロッカ、クソジジイ!」


(ぶ、無様な負け犬姿って………一番尾を引いているのはエマさんじゃ…)


メガネ、濃いグレーのスーツスカート、ピンヒール、という女教師の鑑のような装いのエマさんは、ものすごく

教壇が似合う。

そんなエマ先生に家畜のような扱いを受けた俺は、既に体力の限界を迎えそうである。


「はい、分かりました!」


「クソジジイは止めんか!小娘ぇ!」


ロッカとラウルはエマさんの両サイドに設けられた特別席に座っていて、それぞれ元気の良い返事を返している。


「まず初めの講義内容は、『ミジョウのスキルとロッカの誕生について』だ!

 ミジョウのスキルはおそらく、強力な幻覚を見せるものであろうと考えている!」


「幻覚?これが幻覚だって言うんですか?講義の初っ端からいちゃもんつけて申し訳ないのですが、ちょっと腑に落ちないというか、納得できないというか……」


いきなり俺がエマ先生に質問するのにはそれなりに理由がある。


修練宝塔に入った時に、何故かは分からないが、既にロッカの記憶は一気に俺に流れ込んできていた。

そしてそれは、やはり確かにロッカとして現実世界を生きてきたという何よりの実感であったから、その2年間を幻覚だといわれてもピンとこないのだ。


「いいかロイよ。幻覚スキルをあてる焦点が違っている。そうだな……催眠と言い換えたほうがいいかもしれない。お前はミジョウにとって都合の良い幻覚を見せられて精神を書き換えられてしまったのだ」


「幻覚で、精神を書き換えられた?」


「うむ」


エマ先生が言うには、ミジョウのスキルは強力な幻覚を見せるスキルなのだそうだ。


出生や家族構成、生い立ちや経験してきたこれまでのすべてを、切ったり貼ったりして全く別の人生を作り、それが自分自身だと思い込ませるというのだ。


「ミジョウが最初に使っていたスキル、虚魔落(こまおち)と言っていたと思うが、あれはまた別のスキルだと思う。おい、クソジジイ!説明を!」


「いい加減にクソジジイは止めんか!」


「私のロイから総魔力の()()も奪って研究などをしているバカにはクソジジイで十分だ!」


「やかましい!これは儂の生きがいなんじゃ!」


「ロイのスキルで具現化しているだけの経験値のくせに、偉そうに生きがいだのなんだの宣うな!ちゃんちゃら可笑しくてヘソでてんぷらが揚がるわ!」


「小娘ぇ!儂のおかげで修練宝塔のスキルが一段階先に進んだ恩も忘れたか!」


「ふん。修練宝塔の持ち主であるロイを助けるのは当然の事であろう?恩着せがましい見本のようなクソジジイだな」


相変わらずの険悪な二人のケンカの様子を見ていた俺は、机に突っ伏してゲンナリしていた。


(け、ケンカは後にして、早く抗議を進めてもらいたいんだけど………)




―それから十数分の間、講義が先に進むことはなかった。





「よいか小童!あのミジョウが使っていた虚魔落(こまおち)じゃがな、あれは対象者に封印を施すスキルなのじゃ」


(よ、ようやく講義再開か……よくもまあ、二人ともあそこまでバリエーションの豊富な悪口が言えるもんだよ…)


俺は、変に感心しながら講義の再開に胸をなでおろした。


「対象者に封印を施す、と言ってたけど俺の何が封印されたんだよ?」


「…お前、小娘に対してと儂に対する態度が違い過ぎないか?」


「俺のスキル空間に居候してる魔力の穀潰しにはこれで十分だ。いいから説明を続けろ」


「くっ…。どいつもこいつも儂の事を軽く扱いおって…!

 まあいい!貴様が封印されたのは、【魔法スキル封印】【武術スキル封印】【成長封印】【身体能力封印】この4つじゃ!」 


ラウルが挙げたのは魔法、武術、成長、身体能力に関わる4種のスキル封印だった。

それが予想以上に多くて俺は驚きを隠せなかった。


「それって、ほとんどじゃん!」


俺が、思ったことを直球で口にするとラウルは首を横に振った。


「ほとんど、ということでもないじゃろう。あくまでも推測という事になるが、両椀の封印、両脚の封印、臓腑の封印、自我の封印、そして最後に心の封印で完成するスキルだと儂は見ている。まあ、死にかけの人間くらいにしか身体機能そのものを封印(停止)させるのは難しいじゃろうがな」


「心の封印って、心臓のことだろ?まるで即死魔法みたいだな…」


「人間の生命力(本能)は思っているよりかずっと強いものじゃ。たとえ、赤ん坊でもそう簡単に心の封印まですることはまずないじゃろうな」


「そ、そうか……」


全てはラウルの推測なのだろうが、その返答で俺としては一応の安心を得た。

今後どう立ち回るかは決まっていないが、即死させられる危険があるとすれば戦うのは危険すぎる。


「ん…? だけど、その封印スキル虚魔落とロッカの誕生はどう繋がるんだ?」


今の仮定の話が全て合っていたとしても、封印されただけで2年間も自分自身を失っていたことへの疑問は晴れない。


「貴様は絶望していて記憶が飛んでしまっているかもしれないがな、その後ミジョウはもう一度別のスキルをお前に使った。穴隅魔(あなぐま)というらしいな。」


「別のスキル、穴隅魔…それがまさか――」


「そうじゃ。虚魔落によって元々の身体能力の封印、そして貴様が努力して積み上げてきた魔法スキルや武術スキルを封印。そして貴様の土台となるそれらが封印されたとなれば、今後の成長までもが阻害される。身体は無事に生きていたとしても、ロイとしての人生が途切れるには十分な理由となろうのぉ」


「…なる、ほど……」


なんとなく言いたいことが分かってきて、曖昧な相槌を打ったところで、ラウルの言葉をエマ先生が引き継いだ。


「虚魔落のスキルで弱ったところに、穴隅魔のスキルで追い打ちかけて精神を書き換える。ジワジワと追い詰めるやり方は、まるで盤上で行う戦略ゲームのようだな」


そして、それまで黙って聞いていたロッカが口を開いた。


「ロイとしての基盤と、その後の未来さえも奪われたところで、『ロッカ』としての人生が始まったんだ」


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