76.おむつの回
(あ、頭が割れる!体……ちぎれて……!)
ガーディの指輪を触った途端の出来事だった。
突然、頭を鈍器で殴られたような激しい衝撃に襲われ、体中に強烈な痛みが駆け巡った。
(ぐうう…ッ!?今度は…胸、お腹…、いや全部、全部………!)
今度は腸を何かに食いちぎられるような痛みに悶える。
ビシ!
ビシビシビシ!
ビシビシビシビシィィッ!
そう思ったのも束の間のこと。
今度は心臓から全身にかけてヒビが走るような嫌な音が響き渡った。
(た、助けて!ぼ、僕がバラバラになっちゃう!僕が……僕は………ッッッ!)
パキィィィィーンッ
「があああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ロッカはそのまま気を失ってしまったのだった。
―。
「う、うう…ここは?」
目を擦り、重たい体をどうにか起こす。
なんかおかしいな。
なんだろう、この感覚……?
…おや?自分の手、すごく小さいな。
まるで、赤ん坊だ。
むっ!?
自分の手の先に見えるのは………おむつだ。
俺、おむつを履いている。
ん?
おむつ?
おむつだと!?
いやいや!おむつだってッ!?
「アッッッッッ!」
気付いた!俺は思い出してしまったのだ!
このおむつの意味することを!
「お、む、つ!お、む、つ!お~む~トゥ~ッ!!!!」
くるくる軽快なステップで回る、踊る!
そして~!
「しゅうーれんーぽーとぉ~ッ!」
ビシッとしっかりキメポーズまで決めてやったぜ!
「ふうっ!いい汗かいたぜ…………ハッ!?」
俺の視線の片隅に、エマさんと見知らぬジジイと子供が一人、冷めた目でこちらを見ていた。
「こ、これは~…その、久しぶりなので………テンション上がって………」
しどろもどろで言い訳し始めると、三人は俺に背を向けて歩き出してしまった。
「ま、待って!待ってください!お願いしますーッッ!」
俺は、三人を必死で追いかけた。
―。
「何をしてるんだ、お前は? あんな男に膝を屈したかと思えば、スキルまで封印されて2年間の別人暮らし。
挙句の果てに、戻ってきた途端のん気におむつダンスとはな…。呆れて物も言えぬわ!」
「まったくじゃ!せっかくの居心地のいい研究所だったというのに、魔力の供給が無くなって偉い迷惑なんじゃぞ!それを、キレッキレの腰つきで力いっぱい踊りおってからに!」
「その通りだよ!どれだけ僕がこの2年間どれほど大変だったか……!?蛇やネズミはまだ良い方だよ!あの虫の気持ち悪い食感……毒草を食べたときの苦しみ……殴られながら水をもらう屈辱……。それを…それを…!踊り一つで返された僕の気持ちがどんなに惨めだったか!」
俺は、ロイ。
ガナイとミアの間に産まれた、開拓村出身の8歳男児。
俺は、確かにガンデッド国狼騎兵との戦いに負けた。
そして、自分の弱さにも負けて白旗まであげてしまった。。
それで自分の関わる全ての人に大変な思いをさせてしまったという、申し訳ない気持ちは当然ある。
だけど。
だけどさ…。
「聞いているのか、ロイ!私はお前にスキルの熟練度を上げるよう助言したな!?だが、それをやってくれたのはここにいるロッカだ!それこそ、血反吐をぶちまけるほどの生活を強いられながらだ!それを、お前はというやつは、おむつでダンスなど……。ダンス中の掛け声は、さすがと言うべきテンポを刻んでいたが、このクソジジイに力を貸してもらうこの恥辱!どうしてくれるというのだ!」
「誰がクソジジイじゃ、小娘が!研究の続きのために仕方なく手を組んだだけじゃ!そもそも儂を誰と心得る!かの有名なラウル・ボルドーじゃぞ!もっと、敬わんか!それもこれも、お前がヘマをするからこんな事態になるんじゃ!しかも、儂まで一瞬魅入るほどに見事なおむつターン!けしからん!」
「ああ……あのアカグロムカデミミズの食感は最悪だった…。ブチュルブチュルとした気持ちの悪い噛み応えの後に堅い足が口の中に刺さるんだ!それでも貴重なタンパク源だから、我慢して食べたさ!だけど、その次の日、排便しようとしたら………ああッ、思い出しただけで気分が最悪になるよ!それを、それをあんな見事なキメポーズまでするなんて!」
ちょっ!ここまで言われるなんてひどくない!?
なんか微妙におむつダンス褒められてるし!
「お、俺ってそんなに悪いのかよ!?」
我慢しきれずに俺は叫んだ。
頑張ったんだよ?
一生鶏鳴、家族や村のために頑張ったんだよ?
口答えくらいいいじゃない。
それをさ?
「おまえは悪い!」
「最悪じゃ!」
「地獄行きだね!」
って言うんだぜ。
酷いと思わないか?
そして最後に口をそろえて言うんだよ。
「「「反省しろ、ロイ!!」」」
って。
しょうがないから、俺はおむつダンスなんか目じゃないくらいにキレのある、おむつ土下座をかましてやったんだ!