表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第1章 開拓村編
68/183

閑話1.立ち上がる

『あなたがガナイね!?友達のお父さんがあなたの道場破りで大ケガをしてしまったのよ!なんでこんなことするのよ!?あ、こら!待ちなさい!」




あれは………若い時のミア、か?

ははっ、懐かしいな。




トークンの街で出会ったのが最初。

街中を歩いているとき、ケンカ腰で呼び止められたんだった。


初めは面倒な女だな、としか思わなかった。

謝れだとか、信じられないとかどうでもいい事ばかり言ってくる。

俺も当時は荒んでいたし、街で会うたびに喧嘩していた。


今思えばバカな話だ。


若い時からこんな素敵なミアとケンカしてたんだからな。


あ?


意識が薄れて………。





『――――ッ!ちょっと!待ちなさい!』


おっ、またミアだ。

これは………ああ、あの時か。


合同討伐であまりに俺が一人で討伐数を稼ぎ過ぎるから、妬みを買っちまって、冒険者たちが何重にも罠を仕掛けた魔物の巣に放り込まれたんだった。


どうにか、命からがらという感じで街に辿り着いたが、血だらけの俺に手を差し伸べるやつは誰もいなかった。


そりゃあそうだよな。


自分の食い扶持まで横取りしたり、道場を廃業にまで追い込んでしまうような人間を誰が助けるというんだ。


だが……


『誰か!治癒の魔法を使える方はいませんか!?この大怪我した人を助けてほしいんです!』


今まで、会えばケンカばかりしていた仲だったのに、そんなことはお構いなしに助けを呼ぼうとしてくれたんだ。


『どうして…!どうして、誰も助けてくれないの!?』


はは。来るわけないさ。

そんなことは俺だって分かってた。


薬屋ですら金を積まれても俺に物を売ろうとはしないだろうことはな。


『…もういいわ!私があなたを家に連れて帰って看病するから!さあ、引きずってあげるから少しは自分でも歩きなさいよね!?』


それでもミアはそんな俺を見捨てないでいてくれた。

ミアという人間が、本当に不思議に思えた。


”ミ、ミアちゃん…。そんなやつ放っておいた方が…”


『うるっさいわねッッ!死にかけの人間に手を差し伸べられないような人が偉そうに指図するんじゃないわよ!ホラッ、あなたも見かけによらず重いんだから、自分でもちゃっちゃと歩く!』


通りの一部を血のカーペットに変えながら引きずられて、家に着くなり着ている物を追いはぎのように毟られたんだよな。


死にそうだったけど、俺だってさすがに年頃の男だ。

女に全裸を見られたくなくて、恥ずかしいって抵抗したんだ。


『はあ~……………あのね!

 死にかけの人がこんなこと恥ずかしがっててどうするの!?水魔法しか使えない私は傷口を洗うくらいしかできないけど、薬も包帯もあるから手当てできるわ!ほら、さっさと脱ぐ!」


そう言われて裸になった後が地獄だった。


水の勢いを調節しないまま、傷口を抉るように洗われるのだ。

痛い、なんてもんじゃなかったな…。


でも、その後懸命に包帯や綺麗な布を取り換えて、付きっきりで看病してくれた。

こんな(ひと)は他にはいないだろうって、その時に思ったんだ…。




……。


………。


ああ、ミアにもう一度会いたいな。

ポロンはこれからどんどん大きくなるんだろうな。

シンディはもう俺の娘だ。娘、娘、娘……娘ってどう接すればいいか分からんが、幸せを見届けたかった。

バダには何もしてやれていない。これからだったのになぁ。



ロイ…。



お前、なんてことしてくれたんだよ。

息子の命乞いの土下座を見せられる親の気持ち、考えたことあるのか?


親不孝にも程があるぞ、お前。


…いや、頭を踏みつけにされてるお前を見せつけられても、何もできなかった俺が言える事じゃないか。


生きてるのか?

生きてくれよ?


俺の分も。


ちゃんと、幸せに……。




………寒い。


…もう、力が入らない……。








ドボンッ!



………これは?


いや、この感覚は…!


ロイの回復魔法か!


傷口が!

力が!


体に光が戻ってくる!


だが、一体どうして!?





「ここは…」


ゆっくりと目を開けた俺は、水がたっぷり入った土のプールの中にいた。


傷口は、治っている。

力はまだしっかり入らないが、十分動ける。


顔を上げた目の前にデカイ狼がいた。


「……お前、あの時の狼か?」


「オン。」


「これは…ロイの魔法、だよな?」


「オン。」


落ち着いてよく見れば、狼の腹が大きい。

雌の狼か?


「お前その体、身籠ってるのか?……ああ、ロイの奴お前と赤ちゃんを守ったのか。それで、このプールがあるんだな?」


「オン!」


言葉を分かってる。

狼って頭いいんだな。


「お前に助けられたか、ありがとうよ」


「………」


首を振ったか。


ロイへの恩返しのつもりってか?

どれだけ賢いんだよ、こいつは。


ん?


なんだその土のバケツ?

中身は…また水か。


「ぴちゃ、ぴちゃ」


この狼がバケツの水を飲んで見せたってことは、俺にも飲めって事か。


「…ゴクゴク………ッ!?こ、これは!」


力が漲る!?

まさか!ロイ、お前この水…!


「連れ去られたあの時間、俺が無抵抗に殴られてる間にこんなことしてたなんてなぁ…。

 完全にお前に助けられちまったじゃねえか。なんつう情けねえ親父だよ、この俺は…!」


こうしちゃいられねえ!


ロイには悪いが、まずは皆の元に戻って事情を説明する。

そんで、力をつけて必ずお前を助けに行く!


それまで必ず生きていてくれよ!




「狼、お前も来るか?」


「オンッ!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ