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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第1章 開拓村編
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67.敗北のロイ

「…バ……バカ野郎!ロイ!……何をッ…考えて……!」


全身で呼吸をするような瀕死の父さんが俺を叱る。


何のためにここまで命を懸けて戦ってきたのか、自分たちが諦めたらどうなってしまうのか―。


そんなことは分かっている。


でもダメだ。

身体に力が入らない。


「…俺にはもう、無理だよ…。これ以上父さんが傷つくのを見てられない…!」


俺は縋るように言い訳をした。

それを聞いた父さんはさらに怒気を強めた。


「それこそ……だ!ここで、俺たちが倒れれば……!ミアも!ポロンも!シンディも!バダも!

 村の皆が奴隷の国に………連れていかれる…!それが…分からないか!」


分からないはずがない。

それを考えて、考えてようやく辿り着いた作戦だったのだ。


しかし、一度折れた心をもう一度立ち上がらせることは容易ではない。


俺は、父さんの叱責を聞きながら、ミジョウと呼ばれた男に向かって頭を下げた。


「ミジョウ…様。どうか、父をお助けください。村の皆をお助けください。

 私は魔法を使えます。少しなら武技のスキルも持っています。索敵スキルで先遣隊としてもお役に立てるでしょう。」


「ロイ……お前何を………まさか!や、やめろ!ロイ!」


父さんは、俺がこれから重ねていくであろう過ちについて悟ったらしいが、もう止まるわけにはいかない。


「……して?」


ミジョウが構わず問いかける。


「…まだ、6歳の身ではありますが、利用価値は十分かと存じます」


「やめるんだ!ロイ!」


俺は、父さんの声に下唇を噛んだ。


「やかましいぞ、災害!」


「ぐはぁっ!」


隊長のゲイルがガナイに一撃を加えて黙らせる。


それを一瞬だけ見るが、ミジョウに向き直ってもう一度頭を下げた。


「私一人……ガンデッド国に降ることで、父と他の皆を見逃していただく事はできませんか?」


額、というよりも顔を地に押し付けて懇願する。

喋るたびに口の中に土砂が入り込み、ジャリジャリとした不快な感覚が広がった。


その様子を眺めるように見ていたミジョウが、笑い出した。


「面白い!災害と呼ばれた父よりも、村人100人よりも自分は価値があるというのだな!?

 6歳そこらの年端も行かない子供風情が父の命乞いをしようというのだな!?

 愉快、愉快よ!ふははははははははは!」


俺の頭を踏みつけてくるような笑い声だった。


土砂を噛みながら何度も何度も必死に俺は懇願の言葉を口にした。

長いような短いような、そんな時間の間に、俺は何度土砂を噛みしめただろう―。



「いいだろう。災害と村の人間についてはこれ以上何もしない」



ミジョウのその言葉をどれだけ待ったか。

俺は跳ねるように顔を上げた。


「あ、ありがとう存じます!それでは……!」


「待て。どこへ行く?」


「ングッ!?」


立ち上がろうとした俺は、今度は本当に頭を踏みつけられて地べたに這いつくばった。


「ど、どこって父の…!」


「何もしない、と言った。その中には既にお前も入っているのだ。治療すらしてはならないな」


「そ、そんな…!」


「嫌なら、村人全員を捕獲するまでだ。災害にも今以上の追い打ちをかけるぞ。さあ、どうする?」


「―――――ッ!」


「ふはははははははははッ!」


頭を踏みつけにされて、呼吸すらままならない状況で俺は自分の無力さを呪っていた。


チラリと父さんが見えた。

顔は見えなかったが、握りしめた棍から血がしたたり落ちていた。



  ああ…

  ごめんなさい、父さん

  俺は、ちゃんとした息子じゃありませんでしたね


  前世の記憶が残っている俺は、色々なものを飛ばして

  家族の愛すら飛ばして、得意げになっていたのかもしれません


  これは、そんな自分への罰なのでしょうか


  あなたの息子として産まれてきてごめんなさい

  

  父さん

  きっと、生き延びてください

  そして、母さんと、ポロンと、シンディと、バダを大切にしてやってください





「なかなか面白い余興ではあったが、お前のような奴は必ずいつか不和を起こすだろう。災害、貴様もだ。

 約束だからな、災害はこのまま何もせずにこの地に置いていく。

 そしてロイ、と言ったか。お前は国へ連れて帰る。()()()()()()



流した涙は無情にも森の大地へと消えていく。

何もできなかった空虚感だけが俺に残った。



「本日、二度目の虚魔落である。貴様ら親子への勲章代わりとするがよい!【虚魔落】!!」


ズンと身体が重くなった気がしたが、今更この程度の衝撃など何でもない。

力が消えていく感覚は不快だったが、自分自身とミジョウへの憎しみがそれを上回っていた。


「4枚落ち……やはり子供か。大したこともない。だが、4枚落ちともなれば()()()()()()()()()()()()


そう言って、ミジョウは両手を伸ばし、地に這いつくばる俺に何かのスキルをかけている。


「新たに生きよ!穴隅魔(あなぐま)!」






そこから先、俺の意識は暗い闇の中に沈んだ。

いつも読んでいただきありがとうございます。

これにて第1章が終わりとなります。


今後は幾つかの短い閑話を挟み、第2章を再開する予定です。


相変わらずの不定期投稿でご不便をおかけいたしますが、今後とも、何卒よろしくお願いいたします。

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