57.殿の親子
「―――ッ!父さん!何かが物凄いスピードでこっちに向かってきます!」
俺の索敵に何かが引っかかった。
気配は一つだけだが今までに感じたことのない強力な気配。
「すごいエネルギーを持っています!まるで高速道路の大型ダンプだ!あと5分ほどでここまで来ます!」
「ちぃっ!ついに来やがったか!高速なんたらはよく分からねえが時間がねえのは良く分かったよ!」
開拓村に人はいない。
俺とガナイの二人を除いて――。
「バ、バカか!?」
「そんなことを認められるわけがないだろうッ!」
俺は、作戦会議の時にデンゴさんとマルジさんに怒られていた。
ガナイと二人で追手を食い止めるという案を出したからだ。
ガナイにはトークン行きのグループを引き連れて行ってもらう予定だったが、作戦を練るうちにどうしても避けられない問題が出てきたのだ。
それは狼騎兵による追手である。
馬よりも早いなんて、想定外も良いところだ。
そこで考えたのが最小戦力で追手を防ぐという作戦だ。
はっきり言って苦肉の策なのだが、口に出して提案してみると意外と悪くなさそうな気がしてくるから不思議だ。
「でも、皆が無事で逃げ切る方法としてはこれしかないと思うんです。
普通に考えて、馬より早い狼騎兵でしたっけ?それが追手なら逃げ切るのは不可能だってデンゴさんもマルジさんも言ってたじゃないですか。」
「だ、だからって!ガナイはともかく6歳の子供に…!」
「他に適任者がいないんです。
デンゴさんもマルジさんも、リーダーとしてそれぞれの街に皆を引き連れて行ってもらう必要がある。」
「な、ならガナイだって!」
「冒険者の街に行く人はそれなりに腕が立つでしょう。
魔法が使える母さんもいます。ポロンから魔力をもらえば余程のことがない限り魔力切れの心配もない。街に行くだけなら父さんがいなくても無事でいられる可能性は低くない」
「う…む………し、しかし………」
「大丈夫です。こう見えても一人でゴブリンの群れを倒したこともあるんですから」
「…………」
こうするしかないのは分かる、しかし、これまで共に暮らした仲間を捨て石になどしたくない、という葛藤が
見えるな。
だが、俺の話を否定するだけの代替案がデンゴさんたちにはない。
それが分かった俺は、ここで初めてガナイに水を向けた。
「勝手に話を進めてしまって父さんには申し訳ありませんが、一緒に残ってくれませんか?ここは父さんの武勇が必要なんです。というか、こんなこと父さん以外には頼めないんです」
腕を組み、目を瞑っているガナイの表情は厳しい。
当然だな。
息子から一緒に死んでくれと言われているようなものだ。
「ひとつ…。条件がある。」
重苦しい雰囲気の中でガナイが口を開いた。
「条件、ですか。……どのようなものでしょう?」
「お前が考えている事をすべて話せ。狼騎兵との戦い方、追跡の撒き方、危機に陥った時の対処…。とにかく全部だ。それには、お前にできることも含まれる。隠し事は許さん」
そう、きたか。
俺については『ちょっとできる子』、程度の認識でいてもらいたかったが仕方がないな。
村のため、家族のためだ。
ただ、俺からも条件を付けさせてもらう。
「…分かりました。俺の考えている事、そして俺のできる事は話します。
ただ、父さん1人ににだけ話させてください」
デンゴさんもマルジさんも信用はしているが、特に俺の修練宝塔などはおいそれと簡単に話していいものではない気がするからな。
「分かった。
いいな?デンゴ、マルジもだ。
俺がロイと話をして納得できるならば俺はこの作戦にのる。
お前たちにも分かっているはずだ、これしか手が無いってことはな」
「くっ…」
「お前ら…ばか親子が…」
こうして、開拓村の殿を親子二人で務めることになったのだった。
「少し早いですが、仕方がない!そろそろアレをぶっ放します!」
「ま、待て!まだマスクが……!」
「早くしてください!っていうか最初から付けておく約束だったじゃないですか!?」
「しょうがねえだろぉ!ミアにしこたま殴られたのを、お前も見てただろうが!
『またロイを危険な目に遭わせて!」ってよぉー!
マスクするのも痛ぇんだよ!」
「本当ですよね。息子にこんな危険な役を押し付けて…」
「お前が言いだしたことだろうが!いいから、早くソレをぶっ放せよ!」
「了解です!」
バシュン!
俺は、顔をボコボコに晴らしたガナイとやいやい言い合いながら、土魔法で自作したツボに入れたあるものを風魔法で撃ち出した。
索敵を使いながら一発は狼騎兵に向けて、別の数発を前方で割れるようにした。
数秒後、魔物の悲鳴が森中に響き渡った。
「ギャオオオォオォォォォーッ!」
「よし!」
「流石はゴブリンの生焼けエキスだな!」
ロイたちの初手は見事に炸裂し、ガンデッド撃退戦はこうして激臭の一撃から始まったのだった。