5.ついに転生の時が来た!
「さて、それでは今後の話をしようか。」
―今後の話。
それは天国に行くか地獄に行くかという事だろう。
既に死んでいるので出るはずもないのだが、
唾をゴクリと飲み込んだつもりで沙汰を待つ。
「この世界で一生を終えた者は例外なく別の世界に転生する。
次の世界でのスペックは、前の世界でどう考え、
どう行動してきたかということが成果として現れるのだ。
お前は人を虐げることもなく、真っ当に生きてきたな?
高スペックの肉体を期待するがよいぞ。」
…。
「なんじゃ?もっと喜ばんかっ。」
「あの、天国とか地獄とかは…?」
「だから、その者次第と言ったであろう。
あまりに残虐非道な行いをしてきた者はほとんど才も授かることはない。
肉体的機能も弱かったり、意志も薄弱としていたりと生きるのが困難な場合がある。
その自分の身上を地獄と呼ぶ者もおるだろうな。」
なるほど。
明確にお花畑の天国だとか、
窯茹でとか針の山とかの地獄とかに飛ばされるわけではないんだな。
「ただし、ハンデを持つ者であっても、
懸命に自分の命を全うするよう努め、他者に希望を与えるような一角の人物もいる。
そのような者は例え恵みが少なくても幸せな一生を終えるだろう。
とどのつまりは次の人生のスタートに、前世が大きく影響するが、
努力や気の持ちようで変えることもできるということだ。」
俺は素直に厳しいな、と思った。
そんなの生きていく世界の状況で、
如何様にもなってしまうじゃないか。
真っ当に生きようとしても、
そうはできないこともある。
自分を生かすために盗みを働けばそれは悪事になるし、
それをしないために命を繋げなかったり、
他者の食い物にされることもあるだろう。
「…大変ですね。」
「どう感じるかはその者次第だ。
とにかくお前には積み上げてきた善行値がある。
次は、剣や魔法の世界に行くことになるだろうが、
スキル適性や身体スペックにはまあまあ期待していいだろう。」
なにッ!?剣と魔法の世界だと!?
そんなのワクワクしないわけがないじゃないか!
「とは言っても記憶を持ったまま生まれることができるのは転生者の一割もいないぞ。
宝くじが当たるかどうか、その程度で考えておけ。」
…上げたり落としたり。
まったく人の気持ちを揺さぶってくれるな、この人は。
宝くじなんて当たらない代名詞のようなものじゃないか。
まあ、これは聞かなかったことにして、
次の自分の人生がより良いものになるよう祈ってやろう。
「いろいろと、ありがとうございました。
これで最後なら、あなた様のお名前を教えていただけませんか?」
もし、生まれ落ちた先で覚えていることができたなら、
この人の存在を、あの笑顔を大事な思い出として持っていきたいと思ったのだ。
だが、それを聞いた目の前の美女は、
少しの間、目をぱちくりしたまま思考停止に陥っているようだ。
そして俺が考えていることをようやく察したのか、
突然大きな声をあげて笑い始めた。
「はははッ!ここに来てナンパをされるとは思わなかったぞ!
つくづく面白いやつだな、お主は!
しかし、我には語る名などありはせぬのだ。すまぬな。」
しばらく愉快そうに笑っていたが、
気を取り直して、とでも言うように居ずまいを整えた。
「さて、そろそろ送り出してやらねばな。
右側の扉から次の世界が待っておる。
お主にとって、良き旅になる事を祈っているぞ。」
そう言われた俺は側近らしき二人に連れられて、
転生の扉に入るのだった。
―。
「オギャー!オギャー!」
俺は、元・宇堂正太郎。
記憶持ってたねー!