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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第1章 開拓村編
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47.水球キャッチボール

「バカじゃないの、あんた?魔法を訓練するのになんでキャッチボールなわけ?」


さっきまで、ポロンと一緒に黙って俺とヴィンスのやり取りを見ていたシンディが口を挟んできた。


まあ、俺だって魔法訓練したい人に「キャッチボールしよう」なんて言ったら、そんな反応になるのは分かってはいたよ。

でも、バカ呼ばわりは随分な言い草だとは思わないか?


「その言い方…。どうして、もう少し素直に優しく聞けないかなぁ?」


「あんたが変な事を言うからでしょ?」


「その()()()ってのも直しなよ?今度そんなふうに呼ばれても、返事しないからね?」


「う…」


そこまで言い合ったところで、ようやく主役のヴィンスが顔を出した。


「でも、シンディの言う事も分かるぜ。キャッチボールやってどうして風魔法で敵が倒せるようになるんだよ?」


「大丈夫、大丈夫っ。ちゃんと魔法訓練になるから!」


俺はそう言って魔法を発動する。


「これは…」


「水のボール?」


「その通り!この水の球でキャッチボールをするんだよ。まずは、ヴィンス。それを持って投げてみて?」


言われたヴィンスは首を傾げながら、ふわふわと浮いている水のボールをに近づき持って投げようとした。


バシャッ


「うわっ!?」


すると、持つことすらできずに水のボールは割れて地面に落ちてしまった。

割れた水滴がヴィンスにもかかり、驚きの声をあげる。


「できなかったね。じゃあ、今度は俺がやってみるよ」


さっきと同じように水を生成して水のボールを作る。

そして、ちょっとだけ魔力操作してから手を伸ばし、何事もないかのように水のボールを持って遠くに投げた。


「おおっ!?」


「…ふん。あんたの時だけ水のボールそのものを硬くしたんでしょ?風魔法の関係ない、ただのインチキじゃないっ」


ヴィンスとシンディ、反応はそれぞれ。


「さてね。本当にインチキかどうか……まあ、考えてみてよ」


俺は、そう言うと水配りのために近所の家々を回っていくのだった。






「―――なあ、ロイ。」


「ん?」


「水のボール出してくれよ」


何件目かの水配りが終わったあとで、ヴィンスが声をかけてきた。


「ふふ。いいよ」


俺は、ヴィンスが自分でその答えに辿り着いたことが嬉しくてたまらない。

たとえ幾つかのヒントが先に出されていたとしてもだ。


「さあ、やってみて?」


水のボールを出して空中に浮遊させると、そこにヴィンスが近づき、手が触れるか触れないかのところで動きを止める。


「くっ…!」


ヴィンスが水のボールを掴む直前で止まったまま、額に汗を垂らしながら魔力操作を始める。


「ヴィンス、なにをやってるの?」


「しっ。見ててあげて」


ゆっくりとヴィンスの手が水のボールに触れる。

そして、シャボン玉にでも触るかのように慎重に感触を確かめながら、今度は水のボールを掴んで、投げてみせた。


「い、いけぇ!」


ヴィンスの声があたりに響き渡る。

空中に投げ出された水のボールは確かにその形のまま空を飛んだ。


(たった2日で、ここまで……やっぱりヴィンスはセンスの塊だ)


俺は、素直にヴィンスの才能が凄いと思った。


投げられた水のボールは、しかし手から2mほど離れた空中でパシャと割れて地面を濡らしてしまった。


「すごいな、ヴィンス!」


「今の何よ!?ヴィンス、投げたじゃない!」


肩で息をしながら濡れた地面を見ていたヴィンスが悔しそうに言う。


「す、すごいって…ハァ、ハァ……何がだよ? 途中でダメになっちまったのに…」


「投げることができたっていうのが凄いんだよ。覚えてたった2日だよ?すごい以外のどんな言葉があるのさ!」


俺は手放しで褒めるが、本人としては納得いかないらしく、まだ濡れた地面を見つめたままだ。


「ねえ、あんた!どういうことなのか教えなさいって言ってるでしょ!」


シンディが焦れったそうにして俺に詰め寄る。


「言い方。それに呼び方」


さすがにこれ以上は黙ってられない。

言い方も、呼び方も変えてもらわなきゃ、今後の生活に支障が出る。


「う………!わ、分かったわよ、もう!でも、ちゃんと教えてよね、ロイ!」


シンディも観念したらしい。

何に意地を張ってたのか知らないが、ようやく名前で呼んでくれた。


「ああっ。それじゃ、説明するよ。

 ヴィンスはね、空気で水のボールを包んだんだ。」


「空気…で包む?」


「そう。俺が出したばかりの水のボールはただ浮いているだけ。触れば割れてしまう。

 それを、空気を集めて布で覆うみたいにすれば、触っても投げてもその形のまま飛んでいくって事さ」


「……う、うん…?」


「ちょっと待ってて」


俺は、あまり要領を得ていないシンディに分かってもらうために、地面に絵をかいて説明を始めた。


どうして、直接魔法を飛ばすことをヴィンスに教えなかったかというと、理由が二つあった。


一つは、ヴィンスの魔力総量が多くないからだ。


俺もポロンも魔力総量は多い方だ。……と思う。

ポロンなんか、産まれたてにもかかわらず、数時間水を打ち上げ続けてようやく空になるほどの魔力量オバケだ。


でも、ヴィンスはまだ魔法を使い始めたばかりで量が少なく、魔力そのものを飛ばすような魔法ではすぐに魔力が枯渇して訓練どころではなくなってしまう。 


そうであるなら、何かに付与する形で魔力を節約しながら操作の訓練をした方が良いと思ったのだ。


そして二つ目。


ヴィンスはさすがに弓の名手デンゴさんの息子だ。


シンディや俺に石を投げつけていたときのことなのだが、水幕や土壁のシールドに投げられるヴィンスの石は、ほぼ同じ場所を外すことが無かったのだ。


そして思い返せば、シンディには絶対に当たらないようなところへ投げていた。

バダは……コントロールに難があるだけかもしれないが。


とにかく、これはヴィンスが相当に目が良く、投擲の感覚が優れていなければできない芸当である。


それらを踏まえて、俺がヴィンスに最初に始めてほしかったのが、武器や矢に風魔法を付与するという魔法の使い方だった。


「だから、キャッチボールなんだよ。投げる時に割れない空気の膜で包めば、強度が増して威力も強くなる。その辺に落ちているただの石だって強力な武器に変わってしまうんだ。

ヴィンスがデンゴさんと同じように弓矢を使うか分からないけど、その時にも風の力でずっと遠くへ強力な矢を放つこともできるようになると思うんだ」

 

「「なるほど…」」


ヴィンスとシンディが同時に相槌を打った。


「それから、キャッチボールのキャッチするときの話ね。

 キャッチの時に水が割れないようにしなきゃならない。空気のクッションを作って受け止めるんだ。それを突き詰めれば、高いところから落ちてしまうようなときにも役立つし、空気圧を高めれば剣や槍からの攻撃の威力を抑えることもできるかもしれない。空気の階段を作って空を駆け上がることだってできるかもね」


後半部分は口から出まかせでしかない。


だけど、魔法は想像力がものを言う力だ。

信じて、信じて、そして研鑽を積めば、決して夢物語には終わらないはずだ。


「すべてはヴィンスの思い通りってわけだ!ワクワクするだろう?」


「………」


ヴィンスは何も言わない。


だけど、目の色が変わったのは一目でわかった。


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