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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第1章 開拓村編

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34.この世界で生きていく

(こりゃまた派手に…。これで知らないふりってのは、さすがに無理があるよなぁ。

 ま、仕方ない。人の命には代えられないよね。)


ニタニタしながらシンディに襲い掛かるゴブリンにプッツンした俺は、勢いのままに魔法をぶっ放してしまった。

ゴブリンを一網打尽にできたのは狙い通りだったが、森にハゲができるくらいに大木まで切れるとは思っていなかった。


「…大量殺戮したら、あの世で()()()に怒られるかな。

 般若ミアに閻魔様、か。考えただけでブルッとくるな」


どうでもいい独り言を呟きながら、生き残りがいないか慎重に確認する。


後ろの方で、


「ロイ!なんだよ今の音は!?ぶ、無事なんだろうな!返事しろ!」


とかなんとか、ヴィンスが騒いでいるが取り逃がしの確認の方が大事だ。

不意を突かれて誰かが怪我をしてしまった、なんて絶対に避けなければならない。


もちろん、水幕を張って自分への攻撃にも対処できるようにしておく。


「うっ…」


凄い臭気だ。

ゴブリンは体臭もひどいが、血肉の臭さはその比ではない。


それに死骸のグロさも想像以上だった。

バラバラに飛び散った腕や頭。そして夥しい大量の血液や臓物。


「きっつい…。」


こみ上げてくる吐き気を堪えながら、俺は慎重にゴブリンの生き残りがいないか探索を進める。

死骸と大木のせいで歩きにくいことこの上ないが、その惨状の終わりが見えてきた。


「ふう。どうやら生き残りは――」


そう言い終わる前に、ザワッと全身に鳥肌がたつ。


緊張した俺の前方に赤く光る何かが迫ってくるのが見えた。


(ま、まさかフラグを踏み抜いたのか…ッ!?)


思い切り横っ飛びして身をかがめる。





 シュゴォオッ





俺の頭ほどの大きさの火の玉が音を立てて通り過ぎて行った。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ…!」


(じょ、冗談じゃねえぞ!あんな凶悪なモン打てるやつがいるのかよッ!?)


口が渇いて冷汗が止まらない。


俺は、水幕を目いっぱい分厚くして、木の陰に隠れるように様子を伺う。



森の奥の方だから暗くて良く見えないが、確実に何かがいる――。



そう思うと、単純にただただ怖くてブルブル震える身体を自分で抱きしめる。


さっきはシンディが殺意の的になっていたから冷静でいられた。

さっきは怒りに我を忘れていたから冷静でいられた。


だが今は違う。


明確に自分の命が狙われているのだ。


「――ッ!」


またザワッとした悪寒に襲われる。


「ま、また来たぁ!」


火の玉がかなり正確に自分の位置めがけて飛んでくる。

冷汗が自分自身を突き刺すような感覚だ。


バッティングセンターの中くらいのスピードで飛んでくる火の玉を、先ほどと同じように横に飛んで距離を稼ぐ。


火の玉がさっきまで隠れていた木に着弾する。



ゴゴオォォッ



大木に当たった火の玉は、幹を抉るように燃え盛って向こうの景色が見える大穴を開けてしまった。


(こんなの無理だ!なんでゴブリンの群れにこんなのがいるんだよ!?)


「に、逃げ…ッ」


一瞬後ろを向きかけた俺は、後ろにいるポロンやヴィンス、シンディたちを思い出して踏みとどまる。


「……………」


(逃げる?逃げるだとっ?

 俺が逃げた後、こいつがどこに向かうかなんて分かりきっているじゃないか!)


目を瞑り、唇を噛んだ。


魔法の規模としては自分の方が断然大きい魔法だったのに、ちょっとばかりイタチの最後っ屁みたいな魔法を見せつけられてくらいで怖気づいてしまった。


(俺は、情けないな…………。が、反省は終わったあとだ!)




俺は魔力を高速で循環させる。


そして左手には目いっぱいの質量を。


右手では人差し指と中指に魔力を集中。




「どこのどいつか姿も見えないけどな。この魔法戦、絶対に負けられねえ!」


ザワッ


またしても、身体に悪寒が走る。

と、ほぼ同時に火の玉が飛んでくるのが見えた。


(さっきから感じるこの悪寒。そういえば、そのすぐ後に魔法が飛んできていたな……そうか!)


「そういうことか!俺に感じられていた悪寒は()()の魔力!

 ()()も俺の魔力の高ぶりを察知して魔法を放っていたというわけだ!」


俺は、先ほどまでのような無様な横っ飛びなどせず、魔力を維持しながら走り出した。


ゴオォォォウッ


またしても、火の玉が大木の幹を抉る。

生木を焼ききるなど大した火力だとは思うが躱せばいい。

落ち着いてみればそれほど早いというものでもない。


(よし、今度は周りが見えている!)


「今度はこっちだ!よーく狙えッ!」


大声を張り上げ魔力を最大限まで練り上げる。


ザワッ


(魔法を発動したな!?上等だ!そんなもんかき消してやる!)


ドッッパアァン


火の玉を確認した俺はそれを目印に、左手に溜めた魔力で特大の水球を放つ。

直球2メートルを超える水球は火の玉を飲み込みその場で破裂した。


「これで終わりだ!水刃、二連ッ!」



スゥ……ンンンンン…ッ



跳び退いても屈んでも避けられないよう、上下に並んで音もたてずに飛翔する水魔法の刃。


「ギ、ギィィヤアァァァァーッ!」


おぞましい叫び声があたりに響き渡る。

どうやら、水の刃は敵に命中したようだ。



ズズウゥゥx-ン



叫び声をきっかけにしてか、またしても大木が次々に崩れ落ちていく。


(これが……この世界で生きていくという事、か…)


先ほどのゴブリンへの魔法。

そして今の今まで繰り広げていた命のやり取り。


前世では考えられなかった死と隣り合わせの日常。

その殺伐とした現実に目がくらみそうになる。


しかし、俺は生き残り、そして戦いからその術と心の在り方を学んだ。


「ハァ、ハァ、ハァ…。お前らは許せないが、そのおかげで俺はきっとこの先も生きていけるっ。ありがとうございました!」


俺の生の糧となってくれた、未だ姿を見ずにいる暗闇の中の敵に、俺は深々と頭を下げるのだった。


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