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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第1章 開拓村編
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33.死神のカマ

目の前の光景に血が逆流しかけた。


辛い思いばかりをしてきたほぼ同い年の幼子が、不安と恐怖にまみれてその最期を迎えようとしている。


そんなこと許せるはずがない。


(だがッ!だからこそ…ッ!)


俺は優先すべきものを間違えないよう、逆上しかけた頭をコントロールする。


(ゴブリンと戦うことよりも、全員で確実に生き残る方法を考えるんだ!)


「ロイッ!どうにかならないのか――ッ」


ゴブリンの棍棒が動く!

それに気づいたヴィンスが悲鳴を上げた。


「土壁ッッ!」


ヴィンスの叫びを払いのけるかのように、それを遮って土魔法を発動する。



 ガシュッ!!



「シ、シンディーーーッ!」


棍棒がシンディめがけて振り下ろされてしまった。


「……シンディとは距離があったから、離れた場所への瞬時の土壁生成は賭けでもあったよ。でもね…」


パラパラと砕かれた土の破片がシンディの頭上に降り注ぐ。


「ここでやらなきゃ駆け付けた意味が無いんだよ!」


間一髪だった。

どうにかゴブリンの攻撃を防ぐことに成功したぞ――っ!


突然湧いて出たような土の壁に邪魔され、少女の頭を砕く感触も無かったためか、ゴブリンは次の攻撃に移らずに自分の棍棒とシンディをキョロキョロと見比べている。


「ヴィンス!シンディを頼めるか!?」


「や、やってやらぁ…!」


一瞬、ゴブリン達にたじろぐヴィンスだが、全速力でシンディのもとへ駆け出した



(ゴブリン達は、30匹や40匹じゃきかないな。森の中で正確な数は分からないが、100匹以上いると想定して事にあたるか。さて…ここからは一手も間違えられないぞ。まずは…)


「水球!」


俺は、シンディに襲い掛かったゴブリンに水魔法をぶっ放す。

弾き飛ばすことには成功したが、威力が十分でないのか息の根を止めることはできない。


「ヴィンス!少し屈みながら走れ!お前に当たっちまう!」


「んなッ!?あ、当てたら絶交だかんな!」


そ、それは気合入れてコントロールしなければなるまい!

ボッチに逆戻りなど許されることではないッ!


「水球、連射!」



ドドドドドッ



シンディの近くにいる10匹ほどのゴブリンめがけて水球をぶつけて弾き飛ばす。

もちろんヴィンスには当てない。当てるわけがない。


その間にヴィンスがシンディのもとへ辿り着いた。


「シンディ!大丈夫か!?」


ヴィンスはシンディに駆け寄って庇うように上から抱き着いた。


「土壁ドーム!」


すかさず俺は雪のかまくらの様なドーム型の土壁で二人を覆う。


(これは!?ロイがやったのか…!?)


「ヴィンス!俺が行くまで持ちこたえろ!その土壁のドームが二人を守るから!」


こちらからは二人がまる見えだが、ゴブリンはみんなあちら側にいるので囲まれない限り攻撃されることはない。

俺も、ポロンを抱いたままそこに目掛けて走り出す。





ギィィィャアアア!




さっきまで呆気に取られていたゴブリン達だったが、その内の一匹が騒ぎ出し、それに呼応するようにほかのゴブリン達も怒りの咆哮をあげて戦闘態勢に入る。


一斉に襲い掛かってくるゴブリン達を牽制しながら二人のもとへ辿り着いた俺は、震えるシンディに寄り添うヴィンスにポロンを預け、ドーム型の土壁の形状を変化させながらヴィンスに声をかけた。


「ヴィンス。ここを閉じるから、しばらくそのまま二人を見ててくれ」


「おい!お前は――!?」


「あいつらをやっつけてくる。」


「なっ!?バカ!おい、やめろよ!おい!」


「大丈夫。心配するなよ。ああ、喉が渇いたらポロンに言って水をだしてもらってくれ。

 ポロン。良い子にしてるんだぞ?」


「あうーっ!んんあーっ!」


置いて行かれたことが納得できないのか暴れているポロンをそのままに、解放されていた側も空気穴だけ残して土壁で覆った。


三人の安全が確保した俺は、土壁のドームを背にして迫りくるゴブリンの群れを睨みつけた。


「さてと、お前ら。覚悟しろよ?年端も行かない子供をあんなに怯えさせやがって…っ。」


自由になった両手を前に突き出して、体内で魔力の循環を加速させると同時に、徐々に掌に魔力を集めて圧縮させていく。


「これからシンディはお前らの影に怯えながら暮らしていくかもしれないってのに、お前らの死は一瞬だ…。

 まるで割に合わない話だが、今回はそれで許してやる。」


水球で弾き飛ばしたゴブリン達も、すぐ目の前まで迫っているが、膨れ上がった魔力も限界点を迎えた。


「ただ、命で償え! 水刃ッ!!」



ヒィィィィン……ッ



ロイの視界にも収まりきらない高速の何かがゴブリンの群れを通り過ぎていった。


確かに魔法は発動した。

だがゴブリン達の足は止まらない。


いや、足だけが止まらなかった。




ズレる。

ズレる。


ズレていく。


ゴブリンたちの身体が――。

そして生い茂った大木が――。


ズン…ッ


ズズズズ…ッ


ドォーン!




ここら一帯を一瞬にしてゴブリンの死体と倒木だらけにしてしまった俺はため息をはいた。


「悪いことはしてないけど…さすがに母さんに怒られるかもなぁ…。」


ゴブリンの群れよりも何よりも、俺は般若のミアがこの世で一番恐ろしかった。

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