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モノゴイと呼ばれた男  作者: クラノ恩樹
第1章 開拓村編
30/183

30.水配り

「ふう。それでは、また2日後にきますね」


「ロイ君、ポロン君。今日もありがとうね」


「あいっ!」


「ほら、いくよ。ポロン」


「あいっ!」


俺とポロンは近所の人たちに水魔法で水を配るようになった。


この開拓村には幸運なことに小さな井戸があるが、そこから毎日水汲みをするのはさすがに大変だ。

それが女性だけの家となればなおのことである。


既に、ポロンの出生エピソードは村中に知れ渡っており、

俺が水魔法を使えることも、毎日ポロンが魔力を溜めないようにしなければいけないこともみんな知っている。


初めは腰の悪いドーミンのオババにお産のお礼として水を出してやってたのだが、バレちまっちゃあしょうがねえと、ガナイの発案で村中に配るという話になったのだ。


「ポロンの魔力はどうせ毎日使わなきゃならないんだろ?垂れ流しにするくらいなら、村の皆にくれてやったらいいじゃないか。」


とガナイが言う。


「…。」


なんかガナイの様子がおかしいのでジト目で攻めてみる。


「じぃー…」


「な、なんだよ?」


「…何企んでるの?」


「なんの事かな?ヒュールル~…」


やけにうまい口笛がムカッと来るな。


「どうせシンディのところに行って仲良くなって来いとかって話でしょ?」


「ぶっ!?なんで分かるんだッ!?」


「父さんの考えてることくらい秒で分かります。」


「そ、そんな言い方ないだろう!俺はお前の父親だぞ!」


「偉そうに言うなら、息子にバレるような安い芝居をしないでください」


「ふぐう…」


ガナイは涙目だ。

父の悔し泣き…さっぱり萌えないな。


「まあ、いいですよ。

 あのビンタから一年経つけど全然接点持てていないし、僕もポロンも魔力は売るほどありますからね。ついでに恩も売ってきますよ」


「…お前は一体どこの子だ?」


あまりの言い草に、心底呆れたという顔でガナイが白い目を向けてくるので言ってやった。


「世界一の父親ガナイと、世界一の母親ミアの子ですよ。ちなみに世界一の弟を持った世界一の幸せ者です」


本心だ。


特別な事など何も言っていない。

それなのに、ガナイは目をぱちくりさせるばかりだ。


息子の誠意を込めた言葉が伝わらないなんて残念な男だな。


「それじゃあ、シンディの様子でも見てきますかねぇ。行くよポロン?」


「うーっ!」


「おぉっ、元気がいいねぇ。よっこらせっと」


俺の話が分かっているのかどうなのか。

タイミングよく腕を振り上げて返事をしたポロンを抱き上げて、家をのそのそと出発する。


そんな二人の小さな背中を見送るガナイがぼそりと呟いた。


「あいつ、オヤジくせぇな…」










男が一歩外に出れば……何人の敵がいるんだっけ?


結構な数がいたような気がしたけど、それはどうやら本当らしい。

とりあえず、今俺の目の前に敵が二人いるようだ。


「出たな、卑怯者!」


「ガナイさんの子供だからっていい気になるなよ!」


石を投げつけながら、バダとヴィンスが俺に絡んでくる。


バダは相変わらず卑怯呼ばわりする進歩の無いやつだ。

ヴィンスは、開拓のリーダーをやっているガナイをやたらと引き合いに出して突っかかってくる。


ガナイとの体術訓練もしているから石を避けるのは簡単だが、ポロンの首が座ったとはいえあまり揺らすものではない。


俺は、土魔法の訓練を兼ねて、前に使った水魔法のシールドではなく、土魔法で壁を作って投げつけられる石を防いだ。


「こ、今度は土の壁か!?卑怯者!」


バダは卑怯者が口癖らしい。


「いや、だから2対1は卑怯じゃないのかよ?赤ん坊に向けて石を投げるのだって最低だぞ?」


「うるさい!卑怯者は何をしても卑怯者だ!」


(バダ…。お前、語彙力を鍛えた方が良いな…)


「赤ん坊だと!?そんなのどこにいるって………」


バダの頭の悪さに呆れていると、ヴィンスは俺の言葉が耳に入ったようだ。

以前よりも話が伝わりやすくなっている、かもしれない。


「うーっ!うーっ!!」


攻撃をされているのが分かったのか、ポロンが拳を振り上げてバダとヴィンスを威嚇している。


(か、かわいいな…)


子どもの投石など土壁の前には大した問題ではない。

石ころを防ぎながら、ポロンの威嚇をデレッと見ていると、それにヴィンスが気づいた。


「あ、赤ん坊!いつからいた!?バダッ!石をやめろ!赤ちゃんにあたる!」


(ポロンはずっといました。ちなみに一年前もいました。)


ヴィンスは慌てて石を投げ続けるバダを止める。

が、バダは気づいていないのか、投石を辞める様子がない。


「やめろって言ってるだろ!バカバダっ!」


ボコッ


(あっ。殴っちゃった)


突然のことに一瞬ポカンとするバダだったが、殴られた頬が痛み出したのか怒りの目をヴィンスに向ける。


「やったな、ヴィンス!?友達の俺を横から殴るなんて!お、お前も卑怯者だ!」


「う、うるせえ!赤ちゃんに石を投げるやつを殴って何が悪い!」


とっさに手が出てしまったことに自分でも焦ったようだが、ヴィンスも引けないらしい。


「くっそー!お前ら覚えてろよ!」


バダは()()()を吐き捨てて逃げ帰ってしまった。


「…」


「…」


俺とヴィンスは無言で向かい合う。

腕の中でポロンがうーうー言いながらヴィンスを威嚇して、チラチラそれを見ながらヴィンスがバツの悪そうな顔していた。


「ありがとうな、弟を守ってくれて」


俺は、素直にヴィンスにお礼を言った。

すると、ヴィンスは驚いた顔で俺を見て言った。


「お、怒ってないのかっ?」


「怒ってはいたよ。俺はともかく、赤ん坊の弟に石を投げつけられたんだからな」


「うっ。そ、そうだよな。ゴメン。俺が悪かったよ…」


意外にもヴィンスは謝ってくれた。

本当は良いやつなのかもしれない。


(ふむ…)


もっと、ヴィンスと話をしてみようかな。



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