28.天才
「自分たちで別属性の魔法を覚える?そんなことできるのかしら…。」
――火魔法や土魔法を自分たちの力で習得する。
そんな突飛な子どもの思いつきにもミアは本気で考えを巡らせてくれている。
ミアは子供の言う事にも頭から否定するなんてことをせず、取り繕った生返事をするという事もしない。
ポロンをガナイと共に救ったという前例も多分に影響しているのだろうが、それでも「はいはい、そうよね」などと、なおざりな会話をしたことがないのだ。
前世で少し年の離れた弟がいた俺だから、それがなかなかできる事じゃないのは分かるつもりだ。
そんなミアのことを素直にすごいと心から思う。
そんなふうに自分の母に感心しながら、俺は修練宝塔での修行の時言ったミアの何気ない一言を思い出していた。
『なんか水を出せそう、って思ったからやったらできたのよ』
発言自体を切り取ればアホな子の印象しか受けないが、ミアは驚くべきことに魔力操作の訓練をせずに水魔法を発現させたということになる。
さらに、ポロンの魔力排出の件だ。
あの説明下手なガナイから話を聞いただけで魔力の回路をポロンと接続し、しっかり魔力溜まりを解消させているのは驚愕でしかない。
そこから導き出される推論はただ一つ。
(ミアって魔法の天才なんじゃないだろうか…?)
という事だ。
ミアが本気で取り組めば別属性魔法の一つや二つ、何とでもなると思うのだ。
子どもの「お母さん、なんとかして」と同じだから思うところも多分にあるが、できそうな人に助けを求めるのは恥ずかしい事ではない、はずだ。
「僕は…魔法を初めて使った時のことはよく覚えてないんだけど、母さんはどうだったの?」
修練宝塔でミアが魔法を使った経緯は知っているので、敢えて誘導するように聞いてみた。
すると、面白いことが起こった。
「あの時は、そうねえ。なんか水を出せそう、って思ったからやったらできたのよねぇ…」
修練宝塔の中のミアと、一言一句変わらない言葉が返ってきたのだ。
(ははっ。本当に人格や考え方まで同じなんだな)
無意識にニヤッとしていたのだろう。
ミアが不機嫌そうに俺を睨んだ。
「…なによ?何か面白い事でもあったのかしら?」
「ち、違うよ。すごいなと思ってさ。」
「本当かしら…?」
「本当だよ。だって、今のを聞いたら火魔法や土魔法も、母さんができると思えば実現できちゃうって事じゃない?そんな天才が自分の母親だと思ったら嬉しくてさ。」
本心だ。ミアならできる。
真っすぐに思いを乗せて話すと、揶揄われているわけじゃないことは察してくれたようだ。
「むう…」
またもや考え込んでしまったミアだが、数分後、ついに思考の渦から抜け出したようだ。
少し口もとが笑っている。
「ロイ…母さん、やるわよ。」
(か、母さんカッコイイな…っ!)
ボリュームのある胸を、さらに強調させるように背筋を伸ばして自信たっぷりに言い放つ姿に、俺は思わず見惚れてしまった。
「母さん!お供します!」
「だから、そういうのが子供っぽくないって言ってるのよ!」
少し気恥ずかしそうにそそくさと外に出ていくミアの後ろを、俺はポロンを抱きかかえて急いで追いかけた。
結果から言えば、ミアは簡単に火魔法を発現させることに成功した。
ミアは意外にもいきなり火魔法を使おうとはせずに、今まで水しか発現させていなかった水魔法でお湯を作ることから始めた。
そこで熱についての魔力イメージが固まってから、初めて火魔法の発現に取り掛かかったのだ。
(なぜに今まで水魔法でお湯を作ろうとは思わなかったのか、不思議でならん。俺はいくらやってもできなかったのに…。)
俺は湧き出てくる疑念を忘れるため、しばらくの間ポロンの魔力排出に専心していたが、1時間もしないうちにミアは水の温度調節を自在にできるようになった。
(だから、なんで今までこれをやってこなかったんだよ!?)
チート能力に恵まれながらも、どこか残念なミア…。
内に沸いたツッコミを口に出すことなどできず、俺はただ遠い目をしながら魔力排出で精神統一をするばかりだった。
しかし、そんなことをしている間にも、天才ミアは火魔法の発現に成功する。
(ま、まさかこんなにアッサリできるようになるとは…。)
さらに、突然の火魔法の発現に大いに驚いた数十分後、ミアは完璧に火魔法を使いこなせるまでになった。
「キャー!やったわッ、火魔法よ!見てみなさい、ロイ!母さんすごいでしょ!?」
「う、うん!本当にすごいと思うよ!さすが母さんだね!」
「そうでしょう?これでみんなに冬でもすぐに温かいものを食べさせてあげられるわ!」
世紀末のモヒカン頭のように火炎放射を繰り返す母親の姿にさすがに寒気を覚えてしまうが、子供のように無邪気に喜ぶミアに苦笑する。
「料理にそんな火力はいらないと思うけど…でもそうなったら嬉しいな」
「ふふっ!あなたもきっとできるようになるから、母さんと特訓しましょうね!」
「ありがとう、母さん!」
ガナイは武術の天才で、ミアは魔法の天才だった。
「…ポロン。お前、勇者か賢者にでもなるか?」
冗談のつもりで声をかけてみたのだが、現実にそれが起こりそうな気がして少し怖くなった。




