26.魔法のことは母さんに聞こう!
「母さん、魔法について聞きたいんだけど。今、良いかな?」
「えっ?」
水魔法で洗い物をしていたミアの身体がピクンと跳ねた。
「い、今…母さんを呼んでくれたのかしら…?」
息子が声をかけただけで恐る恐る後ろを振り返るミアが少し可哀そうに思えてくる。
(何をそんなに感動してるんだよ…?そんなに蔑ろにした覚えなんかもないぞ?
確かに前よりかはミアよりガナイとの時間が長いけど、ポロンの魔力排出は俺と母さんが交代でやらないといけないから仕方ないし。)
ミアは綺麗で優しい母さんなんだが、時々変なところでポンコツになるよな。
でも、今日はそんなミアとの時間を作るための作戦を考えてきたのだ。
「息子が呼んだだけで大袈裟だよ、まったく。毎日ニコニコ話をしてるじゃない?」
「そうだけど…最近お父さんとロイが仲が良くて羨ましいのよ。前は、もうちょっと私にくっついてくれてたのに…」
「まあまあ、親子の仲が良いってことで納得してちょうだいな。」
「あなた…本当に5歳よね?時々ロイが大人にしか見えないときがあるわよ…?」
「あ、あははははは…。」
危ない危ない。
言動には少し気を付けよう。
「ところで、魔法についてだったわね。母さんに何でも聞きなさいっ」
ドンッとバランスのいい胸を勢いよく叩いて気合を入れるミア。
跳ねるようにプルンと揺れる。
他の男どもならハイエナのように食いつくのだろうが、息子の俺はなんとも思わない。
「ありがとう!早速だけど、母さんが使える魔法は水魔法だけなの?」
「そうね。私が使えるのは水魔法だけよ。どうかした?」
むう、そうか…残念。
「他の属性の魔法を覚えられないかと思ったんだよ。使えたら便利そうじゃない?」
「便利そうって…何に使ったら便利なのよ…?」
俺の発言について怪訝そうにミアが質問してくる。
実生活に魔法を結び付けるのがそんなにおかしい事なのか?
ミアだって頻繁に水魔法使ってるのに…。
「うーん…例えばね。
風魔法で草刈りしたり、火魔法でそれを焼いたり、土魔法で壁を修繕したり、とか。
そんなことに使えたら便利そうじゃない?」
せっかく魔法が使えるんだ。
やっぱり前世の日本の常識とかで知識チートして、それを魔法でどうにか再現したいという欲求を抑えられなくなってきたのだ。
(ガナイとミアなら多少ハメを外しても、気味悪がらないで受け入れてくれるはずだ。
捨てられないように自重していたけど、ポロンを助ける時に振り切ったからなぁ…。)
思いつくものをズラズラと並べ立てると、ため息交じりにミアが答える。
「あのね、ロイ?魔法が使えたら初級クラスでさえ領主お抱えか国直属の魔法兵士になるのが普通よ?
魔法兵士は遠距離からの攻撃だから騎士の方々に比べれば危険も少ないし、お給料もそれなりに良いから、
一生安泰と言っても過言じゃないの。
あなたみたいに、暮らしを良くするために魔法を使いたいなんて人見たこと無いわよ?」
へぇ、魔法使いは貴重なのか。
それに、生活に役立てるという意識はあまり高くない、と…。
でも、ここで当然の疑問が発生する。
「母さんはどうして魔法兵士にならないかったの?」
俺が聞くと、身体を少しモジモジさせながらミアが答えた。
「と、父さんと一緒に居たいから…よ」
…。
「夫婦仲のよろしいことで、なによりですね」
「…あなた、本当に子供じゃないみたいよ」
さあ、気を取り直そう。
「話を戻すけどさ、母さんだって洗い物とかちょっとした畑の水やりに使ったりするじゃない?
旅の時だって、飲み水に使ったりするって言うし。
魔法っていろんなところで結構使ってる気がするけどなぁ…」
「それは………………………………………………そうよね。」
俺の一言でミアも思うところがあったのか、なにやら色々と考え始めた。
何を考察しているのか分からないが、少し待ってみよう。