2.黄色いおじさんは親切だ
「俺、死んだんですか?」
自分が死んだと聞かされて、
はいそうですか、というわけにはいかない。
にわかには信じられないが、
これほどにも異様な光景を見せつけられると、
あながちその可能性も頭から否定できないとも思う。
―死後の世界?冗談でしょ?アッハッハッハ。
などと、笑い飛ばしたりはしない。
相手の言い分を聞いてやるのは大事なことだ。
それが自分の生死に関わる事ならなおさらだ。
「ああ、そうだよ。
お前もよく分からないうちに死んだんだな。
そういうやつは、ここに来ても事実を受け入れられなかったりするからな。」
「えっ、じゃあここにいる人たちはみんな死んでいるんですか?」
「そういう事だ。」
どうやら俺が死んだというのは本当らしい。
どおりで皆がみんな裸族なわけだ。
あの世に金も物も持っていけないというのは本当らしい。
だが、仮に今の話が本当だとすると気になる事が出てくる。
「俺は…どのようにして死んだのでしょうか?
これから、どうなるのでしょうか?」
当然の疑問だ。
しかも、先の話から推測するに不慮の事故に巻き込まれた、
という可能性が高い。
「それは俺は知らん。
そういうことはこの先で教えてもらえるはずだから待っていればよい。
生前、よほどの悪人でなければ怖い事にはならないだろう。」
うーむ。
一番聞きたいことは聞けなかったが、
なんとなく別の疑問は解消できそうだ。
なんのために俺はここに居るんだろう、
という事だ。
「これは死者の行列、ということですよね?
と、すると私たちは生きていた時の裁きのようなものを受ける感じですか?」
「その通りだ。なかなか察しが良いようだな。
これからお前たちは生前の行いを評価される。
良いことも悪いことも魂に刻まれており、それを元に次の転生が決まるのだ。」
俺たちはお裁き待ち集団だったのか。
待ち受けているのは閻魔様に違いない。
他の命を喰らうことでしか生きていけない人間。
人の生きるはそれ自体が殺生なのだ。
余程の聖人でない限り『天国行き』は望めないだろうな…。
ちょっとだけガクブルしていると、
やさしく声をかけてくれた。
「まあ、俺と普通に喋れるお前ならあんまり心配いらないんじゃないか?
あんまり気にするな。じたばたしたところで今更だしな。」
諭されて、それもそうかと気持ちを落ち着ける。
「いいか、あんまりうるさくしていると、
怖い人が来て注意されるからな。
大人しく順番が来るまで待っていろ。」
そう言いながら遠くの方に視線を動かす黄色いおじさん。
怖い人、か。
遠くに虎柄のパンツをはいた巨人が、
俺の身体よりも大きい金棒みたいなものを担いで闊歩している。
角も生えている。
あれは怖いな。
人ですらない。
うん、俺は騒がない。
「はい。ありがとうございました。」
「うむ。ではな。」
そう言って遠くへ行ってしまった。
黄色いおじさんは親切だった。
俺がお猿じゃなくても優しかった。