168.雷狼誕生
雷光の軌跡を引きながら、レイバンの貫手がロイの胸元に迫る。
「やらせねぇ!ロイー!」
その瞬間、大地を揺るがすような咆哮が響き渡った。
「マグナ!?」
魔狼のマグナがロイの前に飛び込み、レイバンの雷光の一撃をその身に受けた。
雷の力がマグナの黒い毛並みを焦がし、重々しい音とともに地面に倒れ込む。
「マグナ……?おい!マグナ!マグナぁー!!」
ロイの叫びがフロンティアの拠点に虚しく響いた。
抱き寄せてすぐさま治癒魔法を唱え、マグナの傷を塞ごうとする。
しかし、レイバンは容赦なく攻撃を続けた。
「くっ!待て、待ってくれよ!マグナが死んでしまう!」
「待つ道理なんかあらへんな。せやけど、その魔狼はよう主人を守ったわ。褒めたる。そんまま名誉抱かせて死なせたれや」
雷光を纏ったレイバンが高速で間合いを詰め、今度は斬撃を放つ。
「ほんで、タイマンの最中に『待ってくれ』やと?何をぬるいこと言うてんねん?」
ロイは剣で受け流すも、その衝撃は治療を続ける隙を与えない。
「くそっ、このままじゃ本当に……!」
マグナの呼吸は弱まり、命の灯火が消えかけている。
あえてマグナに近づかせないようにするレイバンの攻撃に、ロイの焦りは極限に達した。
「……邪魔をするなぁ!」
ロイは無意識にほぼ全力の魔力を開放してグレゴリーホークの風纏いをかつてないほどに分厚く展開し、レイバンを大きく弾き飛ばした。
「へぇ…」
少し感心した様子のレイバンをよそに、離れたマグナに向けて水魔法でポーションを生成するを飛ばす。
「死ぬな、マグナぁーっ!」
魔力の制御をしないで放った回復の水は、滝の様に大量にマグナを打ち続けた。
「――!」
その言葉と魔法に応えるように、マグナの体がかすかに震えた。
雷で焼け焦げてしまった黒い毛並みが光を帯び、次第にそれが金色に輝き始めた。
突如、マグナの体が大きく跳ね上がった。
悠然と着地したマグナの黒い毛は虎のような縞模様を持つ金色に変化し、その瞳には鋭い光が宿っていた。
「マジかいな。こいつ、生き延びよった……しかもなんや様子がおかしいで……」
レイバンが驚く間もなく、マグナの体から雷が迸り、その力を解き放たれた。
「お前、マグナなのか…?」
「ああ、そうだよロイ。俺は正真正銘、魔狼のマグナだ」
「なんか、お前の毛並み虎みたいだぞ?」
「進化すると見た目も変わるって聞いたことがあるよ」
「し、進化やとぉ!?」
「進化…………そ、そうなんだ。お前の体の周りバチバチしてるけど、大丈夫なのか、それ?」
「平気だよ!俺、雷の力を使えるようになったみたいだ!」
「マジで!?」
「ホンマかいな!?」
衝撃の事実にロイとレイバンが同時に驚く。
マグナはそれを証明するかのように、進化して得た雷の力を操り、瞬時にロイの傍へ飛んできた。
「うお!?」
「ホンマに雷使いよんねんな…」
その瞬発力は圧倒的で、どちらかと言うと持久力の方が優っていたマグナだったが、進化した事、そして雷の力を身体能力に還元する術を得たことで、俊敏さと力強さが融合させたのだ。
「や、やるやんか、魔物の分際で。まさか俺の雷食うてもうたとはな」
レイバンが引きつった笑みを浮かべる。
「…俺ようやくロイの役に立てるよ」
「ようやくってなんだよ。いつも助けてもらってたさ」
「ロイはそう言ってくれるけど、力不足だったのは自分が一番分かってるんだ。あのグレゴリーホークの時だって、俺だけが何もできなかったんだ…」
「マグナ…」
「でも、これからは間違いなくロイの力になれる!さあ、乗ってくれよ」
「…ああ、マグナ!いや、雷狼マグナ!行くぞ!」
ロイは進化したマグナに跨り―――――――――バチィッ!と纏っている雷に大きく弾かれた。
「あ痛でぇっ!?」
「ロ、ロイ!大丈夫か!?」
マグナはまだ、自身の新しい力を使いこなせていなかったようだ。
―。
「ふう。なんとか風纏いで相殺できそうだな」
「ご、ごめんなロイ。あとでちゃんと練習するから…」
風纏いを強めに発動して何とかマグナの雷に弾かれずに騎乗することができた。
その間、レイバンは呆れながらも何故かロイたちのことを待っていた。
「ま、待たせたな!レイバンっ!」
「……お前ら、どうにも締まらんなあ」
「うっ…」
「俺たちはこっからなんだ!行くぞ!」
マグナはロイを乗せてレイバンめがけて雷の力で加速する。
雷光と雷光が交差し、凄まじい速度での戦いが繰り広げられる。
マグナの力を得たロイは風の魔法で相乗効果を生み出し、剣技と魔法を組み合わせた攻撃でレイバンに迫る。
「はははは!まさか思てたよりここまで俺に肉薄してくるとはな!おもろいやんけ!」
一進一退の攻防が続くが、高速同士の闘い。
その均衡は早くも崩れた。
「ぐあぁ!」
ロイがレイバンのわき腹に一撃をお見舞いする。
決定的なものではなかったが、初めてレイバンに効果的な攻撃を繰り出したのだ。
「…やるね、お前ら」
「マグナが凄いんだよ」
「いや、お前らの連携、侮られへんわ。そもそも俺とその狼じゃ雷同士の戦いやとたいした勝負にならへん。ここまで苦戦してんのは、お前らの騎乗スタイルがよう噛み合っとるからやろな」
「でも、レイバンもまだまだ余裕そうだね」
「そらそうや。俺は強いからな」
「…………………」
ロイはマグナに騎乗したまま少し考えこみ、両手の剣を静かに降ろした。
「どないしたんや?続きやらへんのか?」
怪訝な表情のレイバンが問う。
下を向いて考えこんでいたロイは、ようやく顔をあげて思いもよらない言葉をレイバンに放った。
「レイバンはさ…」
「あん?」
「レイバンは面白いことが好きなんだよな?」
「そやけども?」
「レイバン――俺の仲間に鞍替えしない?」
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