10.ミアとの修行 ①
修行場である塔の入り口まで来ると木の扉がギギィと勝手に開いた。
恐る恐る中に入ってみると、
そこはバスケットコートを4面は取れるだろう広さの石畳の部屋だった。
その部屋の真ん中に立っている人物を見て、なんだかホッとした。
その人物が母親のミアだったからだ。
前世の母のことも大切にしてきたつもりだ。
身体が弱いながらも懸命に俺と弟を食わせてきてくれた母には、
本当に感謝の念しかない。
しかしミアも自分にとって大切な存在、母親だ。
(たった一年の付き合いだけど、俺はもうミアを母親として見ているんだな…。)
「ロイー!こっちよー!」
少し、感慨深げに立ち尽くしているとミアが手を振りながら声をかけてきた。
「っ!」
猛ダッシュでミアの元へ向かう。
これはもう条件反射だ、仕方ない。
赤ん坊の姿にもかかわらず、
前世の頃の自分と同じスピードで走っているためあっという間についた。
それでも、ここにいるミアはスキルが作り出した存在だから、
俊足赤ちゃんを見て驚いたりするという事はない。
「さあ、ロイ!早速だけど始めるわよ!」
「はい!母さん!」
「ふふ。いいお返事ね。」
ほっ、良かった。
女神ミアのようだ。
「まずは、そうね…。
ロイには初級水魔法を教えようと思ってたけど、
その前に初級魔力操作を覚えてもらわなきゃならなそうね。」
おおっ、エマさんが言ったとおりだ。
さすがはナビゲーター、言う事に間違いはない。
ミアが目を瞑って精神統一をするとその身体がポワッと水色に光る。
ゆっくりと目を開いて静かに話し出した。
「全身をこうやって魔力で覆うのが初級の魔力操作よ。
覆うだけではなくて魔力の厚さを自由に調節して均等に維持できなければ、
習得したとは言えないわ。」
これが初級か…。
思ったよりもハードルが高そうだな。
そもそも魔力が何なのかが分からない。
座禅して瞑想を―。
いや、違うな。このまま寝るだけだ。
丹田に力を入れて―。
あっ、ヤバい。違う何かがお尻から…ッ。
―。
(あ、危なかった。自分のスキルの中でまで漏らすなど許されるものか!)
赤ん坊の顔で眉間に皺を寄せながら難しい顔をしていると、
ミアが優しく声をかけて俺のお腹に手を添える。
「うふふ。ロイ、大丈夫よ。母さんに任せなさい。」
一つ大きく深呼吸したと思ったら、
掌からすごい熱量の何かがお腹に流れ込んできた。
まるで腹の中が煮えたぎっているようだ。
(くっ!あ、熱っ!?)
それがお腹の中でグルグルと回転するように暴れまわり、
次第に全身へと拡散していく。
指先まで燃えるように熱く、
汗の量も尋常じゃないが大丈夫だろうか。
ハッ、ハッと荒い呼吸をしているとミアが語り掛けてくる。
「今、私とロイの魔力を混合させているの。
血の巡りとも違うその流れを感じ取りなさい。」
流れを。
感じ取る。
心臓から送り出される血液の流れとも違う―。
「こ、これかッ!」
掴んだ!
確かに血流と違う魔力の流れを感じる!
「よくやったわ!分かったら自分の思う通りに動かしてみなさい!
そうっ、その調子!一か所に集めすぎたり暴発しそうになったりしたら私がフォローする!
思うがままに操ってみるのよ!」
ミアも少し興奮気味だ。
ギュンギュンと魔力の流れが加速していく。
自分は一歩たりとも動いていないのにスピード感が半端ない。
ヤバい!制御しきれない!
右手に魔力が集まりすぎているのが分かる!
(は、破裂する―ッ!)
そう、思ったとたん急に右手が楽になった。
「一か所に行ったっきりにならないようにするの!
回転でも螺旋でも何でもいいわ!循環するイメージを!
動きを止めないことが大事よ!」
(み、ミアが助けてくれたのか…。助かったぁ。)
まだまだ指先や関節のあたりに魔力が溜まりやすいようだが、
ミアが上手にそれを流してくれているおかげでさっきよりも滞りなく巡り続けている。
「母さん!これ、すごく楽しい!」
「そうっ?楽しんでできることはすごくいい事よ。」
ミアがにっこり笑う。
自分の母親ながら見とれるほど素敵な笑顔だ。
こうしてしばらくの間、
ミアと一緒に魔力の流れで思いっきり遊ぶのだった。