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転生令嬢の最強釘バット  作者: 御重スミヲ
3/14

3、伯父


 私だって馬鹿じゃない。

 逃亡防止にエセ義母と妹を縄で括っとくくらいするよ。

 あっは垂れ流し! ぎゃはは~っと指差して笑っとこう。

 汚れはともかく自分たちで適当に治癒できるんだから、多少あちこち痛んだって手紙を書くくらいできるでしょう。

 書きたくない?

 いいよ、いいよ。唸れ私の釘バットちゃん!

 ……おーおー落ちるの早すぎてつまんないな。

 もちろん手紙の中身はチェック。


 いそいそとやって来た公証人をフルボッコにして、現在便宜的に父親に与えられている男爵家の権利を私に移させた。

 まあいまの法律じゃ成人したところで私は男爵にはなれないし婿取って云々~っていうのは変わらないけど、後見人さえいれば国から支給される年金を自由にできるのは大きい。

 ただこの後見人っていうのが問題で、私は記憶の中から良さそうなのを引っ張り出すのに苦労する。

 まあ十歳未満の子供が大人の都合を正しく理解してるはずもないか。

 でもこのカサンドラ記憶力は良いみたいで、いまあらためて判断し直せるのは助かる。


 八歳頃までの私は、たびたびやってきて母親に説教する伯父が苦手だったようだ。

 ニコリともしないビシーッと髪を撫で付けたいかにも貴族でございって男だったからね。

 でも今にして思えば、彼の言動は至ってまともで愛にあふれてたとさえ言える。

 なんといっても私の母親は侯爵家の令嬢で、一時は第二王子の婚約者だったこともあるらしい。

 なんやらいろいろあったようだけど結局はぽっと出の下位貴族令嬢にその座を奪われ、しがない男爵夫人に収まったと。

 その男爵位ももともと実家の侯爵家が有してたもので、それによって得られる年金のほかに侯爵家がかなりの資金援助をしてくれてたようだ。

 たかだか男爵夫人が侯爵令嬢の感覚のまま生活すれば、どうやったって足らんもんね。


 その援助金で女を囲う親父よぉ~。

 世間的には傷物になった不憫な妹が慰めを求めた相手だ。多少のことなら目をつぶろうと思ってただろう伯父もそりゃ頭にくるわなぁ。

 あんな男にはとっとと見切りをつけて、なにより娘(私)のことを考えて侯爵家に身を寄せるようにって幾度となく母を説得しようとしてた。

 私にもいつでも侯爵家に来なさいって声を掛けてくれた。

 びびって逃げた私、オイ。

 特に母親の葬式の時ね。ほんと子供って馬鹿だな。


 こんなアホな姪のために手紙一つで駆け付けてくれるなんて、本当に良い伯父さんじゃないか。

「伯父様、何度もお声掛けいただきましたのにこの体たらく。まことに申し訳ございません。いまさらこのようなお願いをできる筋合いではございませんが、ほんの少しでもまだ私を憐れとお思いでしたらどうか後見人になっていただきたく……」

「何を他人行儀に、後見くらいいくらでもするぞ。なんだったら養女にしてもよい。第一にカサンドラは何も悪くない、私の顔が怖いのが悪いのだ」

「何をおっしゃいます。あの時の私はまだ子供だったのです。いまは伯父様が大変に格好の良い方だとわかります」

「そ、そうか?」

 ほら、照れちゃって可愛らしいではないか。

 まあ傍から見たら一ミリも表情筋が動いてないのだろうけど、前世強面ばかりと付き合った私にはわかるのだ。


 イチャイチャしてる伯父&姪の側でガタガタ震える公証人と、なぜか息を吹き返したエセ義母&妹。

「侯爵様ぁ、どうかお慈悲を」

「私なんにも悪いことしてないのに、ひどいことされたんですぅ」

 伯父の顔がこれ以上ないほど冷酷になる。

「どこに侯爵がいるというのだ、いかれた女どもめ。すぐさまこ奴らを叩き出せ。間違っても不敬の焼き印を忘れるなどということのないようにな」

「ハッ! 心得ております。騎士の面目にかけて法に則り処罰いたします」

 そのために護衛騎士が二人程抜けたけど、ほかにもいっぱいいるから問題ない。

 たぶん伯父さん自身もバリバリに強いと思うし……なんていうか元不良の勘?


 公証人の方は不正しようとはしてたけどまだしてなかったってことで、次期侯爵に睨まれるだけで済んだ。まあ終わったってことだ。

 ちなみにいまの伯父さんの身分は子爵。これまた実家の侯爵家がもともと持ってた爵位だそうだ。

 侯爵としては私には祖父に当たる人がまだまだ現役でがんばってる。

 祖父って言ってもまだ四十代だろうからなぁ。


 ふぅ~。まったく静養どころじゃないけど、いままでうやむやにしてたことが一気に来てるってことで。

 お相撲さんも動いて治すって話だし、リハビリにはちょうどいいかと思ってたら、伯父さんにかっさらうように侯爵邸に連れて行かれた。

 男爵邸はそのままにしておくからいつでも帰りたい時に帰ればいいし、とにかく私が弱りすぎててとても見てられないってさ。

「こんなになるまで放っておいて申し訳なかった」

「いいえ、母も私も馬鹿だったのです。見捨てずにいてくださって感謝しています」

 にっこり微笑めば、うっと横を向いて涙を拭ってる様子。

 なんでこんなに気が付いてやさしいのに独身なんだろう。

 顔か、やっぱり顔なのか?

 いやほんと姪の贔屓目(ひいきめ)抜きにしても格好いいと思うけどなぁ。



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