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転生令嬢の最強釘バット  作者: 御重スミヲ
2/14

2、妹


 釘バットを手放すとどっと疲れが。

 まあ仕方ない。

 私はどう見ても発育不良の虚弱児だ。


 マーサに作らせた野菜スープを庭師のボブに毒見させてから、ゆっくりと飲む。

 これでも前世で大病した記憶があるから対処法はわかってる。

 まず根気強くこれでもかとしつこいほど噛むこと。

 本当にちょっとずつ口に入れ、一定のペースで噛み、飲み込むこと。

 もう無理ってラインを少しだけ超えた量を食べること。


 親の仇のように咀嚼してれば気力も湧いてくるってものよ。

 まあすぐ疲れちゃうんだけどさ。

 軽く口を漱いで寝る。

 夕食時には起こすように言っておく。

 とにかく食べて寝てをくり返すしかない。

 運動とかはその後だな。


 降って湧いた自身のスキルについては、なんとなくわかるという不思議な感覚で、まだわからないこともあるけど十分頼もしい。

 なにせ悪意ある者が近付くと、どこからともなく現れた釘バットが手に収まってるっていう便利仕様。

 もともと私の中では釘バットとヤる気はセットだから、寝てても即座にウッキウキな状態で目覚めるわけだ。

 自分の意志で出したり消したりできることも確認済み。


 おかげで安心、ぐっすりだ。

 マーサに持ってこさせたお湯で体を拭いて、洗濯された寝巻に着替え、シーツを替えさせたってのもある。

 もちろん血痕とかゲロの始末もマーサがした。

 本来、案外地位が高いらしい料理番の仕事じゃないけど、ブルブル震えて文句もないようだよ。


「カサンドラの分際で生意気なのよっ!」

 あ、コレ妹。

 ミルクがプラスされた野菜スープを完食したところで現れた点は気が利いてるか?

 食べてすぐの運動は消化によくないけど、食事を邪魔されるよりマシだ。

 ノックもなしに扉をバーンッするのは流行りなのかね。


 はぁ~やれやれ。

 釘バットを手にした私はすっくと立って、乱入者をぶっ飛ばす。

「ちょっ、痛っ、やめて、やめてよぅ~」

 金髪巻き毛の八歳児だろうと構わない。

 いやぁ~こっちこそ散々小突き回されたし、なんなら髪引っこ抜いてパゲ作られたこともあったし。

 そもそも私をこんな所に閉じ込めて虐待してたのはこいつの母親で、こいつも尻馬に乗ってやりたい放題。

 何がやめてだ。

 私が言った時は聞きもしなかったくせに。


 最高なことにこいつは癒しのスキルを持っていて躊躇いなく自分には使うから、治す → 壊すのループでなかなか楽しいことになっている。

 あ~でも魔力が尽きたか。

 もう声も出ないようだが、とりあえず四肢は折っておこう。


 おかげでスキルの弱点を知ることができたけど、私的にはまだまだ満タンって感じなのはどういうこと?

 鼻歌でも歌いそうな高揚感が釘バットから伝わってくる。

 なんだ、殴れば殴るほど敵から魔力を補充できるのか。しかも相手が強ければ強いほど相手の時が止まるとか。

 最強スキルだな、こりゃ。わははは~!


「シーズーちゃん! あんな汚い子の所に行ったら駄目よってあれほど……まあ、まあ、まあ、シーズーちゃんが、シーズーちゃんが! 誰か、誰か来てぇ~!」

 シーズーって犬か。

 それに誰も来ないよ?


 そうなんだよなぁ。

 こいつらが来る二年前までは私も男爵令嬢として普通に暮らしてた。

 貧乏ではあったけど。


 浮気性の父親とプライドばっかり高い母親。

 それでも私にとっては両親で、片手間にでもやさしくされた記憶があるってところがつらいね。

 母親が病死した時はそりゃあショックで、でもいまの私は増えた記憶の分悲しみが薄らいでる。

 大人として生きた私には彼らの欠点もよく見えるしさ。

 まあ母親がみっちり教え込んでくれた礼儀作法はこれから役に立つだろう。


「あ、あんた、こんなことしてどうなるかわかってるだろうね。許さないからね!」

 はぁ? その台詞そのまんまお返しするよ。

 半分血のつながった妹の年から換算すれば、少なくとも九年前からこのおばはんとうちの親父は付き合ってたわけだ。

 浮気はうちの親父にも半分責任があると思ってるし、すぐ後妻に入ったのもまあ貴族社会のしがらみってことで目をつぶろうじゃないか。

 しか~し、先妻の子を虐待するのはアウトだ。

 そりゃ釘バットをフルスイングしちゃうよ。

「ぎゃぁぁぁぁ痛い痛い、治れ治れ」

 あはは、これはいい。この人も癒しのスキルを持ってんだね。

 治して傷付いて治して傷付いて、ほんとご苦労様。


 ついでに訊くこと訊いとこうっていくつか質問をしたら、訊いてないことまでべらべらしゃべってくれた。

 なんだ、このおばはん。いわゆる内縁の妻で、法的には男爵家とは何のかかわりもないんじゃないか。

 妹のことも認知してないとかクズ親父、ほんとクズだな。


 そもそも男爵家にかんして権利があるのは死んだ私の母親の方で、父親は婿なんだよ。

 じゃあ私が男爵家を継げるのかというとそうでもなくて、成人したら婿を取ってその婿が男爵になるって流れらしい。

 思いっきり男尊女卑な世界だが、あのプライドの高い母親でさえ仕方のないことと受け入れていたようだ。

 だったら年端も行かない娘にぐちぐち愚痴るなって話だけどさ。


 で、この何の権利もないおばはんは自分の娘に婿をとって男爵家を継がせるつもりだったと。

 そんなことできるのか?

 あ~なるほど公証人を抱き込んでるわけね。


 ん~じゃあ、そいつを呼んでお話ししようじゃないか。

 でも今日はもう遅いから、また明日ね。



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