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転生令嬢の最強釘バット  作者: 御重スミヲ
13/14

13、侯爵領


 私の生まれ育った王国はバラバラにされて周辺国に吸収された。

 先のスタンピートで蹂躙された領地も少なくなく、それを耐え抜いたところで他国の軍に抗う力はなく、中には無駄な抵抗をしてよけいに血を流した地域もあったけど結果は変わらない。


 王都はといえば、一日目にあっさり魔物が侵入。

 安全地帯を求めた民衆によって王宮は破壊されたと聞く。

 誰の仕業か定かではないが聖女(・・)はゾンビの群れに突き落とされ、最終的には魔物もろとも焼かれたとか。

 からくも生き残った王だけど、帝国に降る時の様は見苦しい限りだったという。

 その上これといった才覚なしということで早々に放逐される。

 平民として日雇いをへて物乞いに身を(やつ)したという噂で、その噂さえいまはとんと聞かない。


 我が侯爵領は帝国の侯爵領となったわけだが、帝国の中で唯一自治権を保障されためずらしい地域だ。

 よそと比べれば税が低めでその割に公共設備の充実した住みよい領地を目指す一方、スタンピートの数ヵ月前から実質鎖国をしていて、いまは物の流通や人の一時滞在は認めてるけど、領民になるには厳しい審査基準をクリアしなければならない。

 そのいちばんの目的は、調子のいい元王国貴族どもを弾くことだ!


 結局、伯父さんは生涯独身で、私を養女にした。

 いずれ私の子が領主になれば自然と自治権なんてなくなるだろうけど、そう悲観することもない。

 だってちゃんと認知された皇帝の子だもの。

 皇太子も私にはやさしいんだよ、ハハハッ。

 ただその他の有象無象がね。

 跡目争いに参加する気はまったくないのに、疑心暗鬼でちょっかい出してくる連中を嬉々としてぶっ飛ばす日々。

 毒だけは手に負えないから、鑑定スキル持ちがなかなかの高給取りになってる。


 そうなんだ。

 自分を売り込んでくる連中の中でも、鑑定スキル持ちを自称する者には気を付けるよう言われていた。(かた)りがとにかく多いらしい。

 実際、私のスキルを鑑定させるといい加減なことを言うやつばかり。

 でも一人だけヒットが……

「あなたのスキルは打撃王と出ています」

 はい、採用!


 一瞬、私と同じ前世の記憶持ちかと疑ったけど、お話しした感じそういうわけでもなさそうだ。

 まだまだ発展途上のそのスキルでは、名前やスキル名くらいしか見られないって言うんだけどさ。

 ほんとかぁ?

 試しに毒の有無を調べさせたら、どんな珍しいものでも極々少量しか入ってなくても百発百中だった。

 本人がいちばん驚いてるとかどうなん?

 まあまだ少年と青年の間くらいに見えるし、どうか長生きしておくれ。


 もともとこの世界の人たちにとって、バットはもちろん釘バットなんて未知のもの。

 一応、棍棒やメイスはあるからその亜種と思われていたようだ。


 前世スポーツとしては特に興味のなかった私だが、スキル名を知って思いのほか嬉しかった。

 ちまちま道具を作らせることからはじまって、それがいまや貴族も庶民も関係なく帝国中で親しまれてる。

 野球にかんするすべての権利は侯爵領が持ってるからウハウハだ!

 子供と一緒に楽しめるものが欲しかったのもある。


「お母様!」「母さま~」「かあたま」

 そう、私には三人の子供がいる。皆あのイケおじの種だ。

 まったくとんだ誠実野郎だよ。

 それでいて彼自身子供のようなところがあって、時々思い出したようにドラゴン退治に行きたいと駄々を捏ねるのだ。

 それが度重なると側近や宰相たちから私にヘルプの連絡が入る。

 へいへい。接待ドラゴン退治くらいお安いご用だ。


「楽しいですか?」

「ああ!」

 まあ皇帝なんて難しい顔して次々人と会って、あとは書類に埋もれてるような不憫な職だ。

 それでも儂がやらずに誰がやるって意外に真面目君。

 たまには心置きなく遊ぶがいいさ。

 チュッ♡

「なんだ、どうした?」

 ハハッ、照れちゃって。

 じつのところ鋼鉄壁なんてスキルを持ってる男だ。時間さえかければ単独でドラゴンを狩ることもできる。

 それが私とデートしたくて、皇帝の時間の貴重さがどうの経費がどうの人的被害がどうのといろいろ理屈を捏ねるんだから可愛いじゃないか。


 ちなみに鋼鉄壁スキルは打撃王スキルでしつこくしつこく一ヵ所を攻撃し続ければなんとか突破できる。

 つまり私の方が強い! わははは~!

 まあそれを受け入れられる奴だからなんとか付き合えてるわけだ。

 自分の子に強力スキルをなんて思惑があったかどうかは知らん。

 教会の言うようにスキルが神からの授かりものなら遺伝するわけないけど、親子で同じスキルを持ってることもなくはないからさ。

 まあどうだろうと些末なことだ。


「空が青いですね」

「そうだな。空気も旨い」

 王宮の中はな~んかどんよりしてるもんな。

 私は前世、学校に押し込められるのも我慢ならなかった口だから、あーいうところは苦手だよ。

 まあ大人になって我慢することを覚えてからは、耐えられるようにはなったけどさ。

 キラリと光る目的でもあればそれもいいけど、しなくていい我慢なんてしない方が絶対に楽じゃないか。


「そろそろお昼にしましょう」

「おう」

 マーサ特製のバスケットの中身を朝からずっと気にしてた陛下。

 料理番の腕がいいのもあるけど、素材の多くが品種改良されてる上に新鮮だからね。

「あっ、それはいま儂が食おうと……」

 誰かなんか言ってるけど聞こえな~い。

 身分が高く格好のいいおっさんに情けない表情で見られるとよけいに旨い! 幸せ。


 私は今日も精一杯生きてるよ!



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