11、スタンピート
いつ退去してもいいように片付けられた侯爵邸はだいぶすっきりしてる。
もちろん最低限生活に必要なものは残してあるけどさ。
貴重な品々は侯爵領に送るか、売り払って戦いの準備資金に。
貴族の学校? 知らん。
まあ貴族の令息令嬢は十二歳から王立貴族学院に通うのが習わしらしいけど、いまさらあそこで学ぶことなんてあるか?
第一いま私は魔物の研究で忙しいんだ。
立場とか人手って意味での護衛付きだけど、アンデットを求めて死霊の森で野宿中。
他領への不法侵入だけど見付からなければ無問題だ。
さて物の本には、アンデットは浄化のスキルで昇天させることができるとある。
それをどれくらいの規模で何度行えるかは人それぞれ。
あのピンク頭、王都くらいは守れるんだんだろうな?
甚だ怪しいし、どの道私たちがその恩恵に与かることはないからこうして調べてるわけだけど。
燃やすことでも退治できることは確認した。
打撃でも壊せるけどちょっとコツと根気がいるな。
しかもカラカラの骨いわゆるスケルトンならまだしも、ゾンビはジューシーなあれこれが飛び散って汚いんだよ。
教会が販売してる聖水は嫌がって避けるだけでノーダメージ。
嗅ぐまでもなく周辺が酒くさぁ~。
平民にお守り代わりに持たせるにはいいか?
苦戦するだろうと思ってたレイスについても解決の糸口が……観察って大事。
空を飛び回り、切りつけてもまるで霧のようで効果がないと言われる悪霊。その叫び声は生き物を混乱に陥れる。
まあ耳栓してれば同士討ちは防げるし、単独で現れることはなくスケルトンかゾンビの上を飛び回るから目印になるって利点はある。
だから大抵は放っておかれるわけだけど、たまたまレイスが捕食される現場に遭遇!
スロフスパイダーって呼ばれてる魔物の巣になぜか引っかかるレイス。
たぶん同じ性質だろう糸でぐるぐる巻きにされてチューチュー吸われてたよ……
一旦、侯爵領に帰って伯父さんたちと相談。
西方の遠国から黒い油を大量に輸入することにする。
それから蒸留器を試作。
鍛冶屋から泣きが入ったけど、いやできないことはないはずだからがんばれよ。
なにせ私は完成品を知っている。細部の作りを知らないだけで……すまんな。
また、ガラスのアンプルを作れ。携帯時は壊れず、投げつけたら確実に割れるものを作れと言い付けたガラス職人も泣いてたっけ。
いやでも人の命にかかわることだから、な?
そしてスロフスパイダーの糸の採取。
吐きたてじゃないと駄目なのか、どれくらいまで時間がたっても効果があるのか検証しなければならない。
スロフスパイダーを意のままに操れたらいちばんいいわけだけどさ。魔物はやはり魔物だ。
油断すればこっちがぐるぐるチューチューされるわ。
理想を言えば、領地すべてを高い頑丈な壁で囲いたかった。
しかし時間・資材・人手とないものねだりをしても仕方がない。
唸る伯父さんの高速演算スキルが魔物が押し寄せるだろう方角と、侯爵領に極力侵入させず且ついちばん無理のない誘導ルートを割り出し、ぶつ切りで微妙な曲線を描いた城壁のような何かを造ることに。
さらに領内に侵入した魔物、特にアンデットにかんしては遊水池のごとく広いスペースを確保し、そこに自然と集まるよう坂や崖を構築。
要所要所にスロフスパイダーの糸で作った霞網が仕掛けられ、高台には大量の黒い油がストックしてあるって寸法だ。
そして二年後。
「ファイヤー!」
「ファイヤー!」
いや~よく燃えること、よく燃えること。
さすがにリッチはレイスのように網には引っかからないけど、投擲部隊がスリングで的確に飛ばす聖水アンプルショットに次々撃ち落される。
蒸留に蒸留を重ねてアルコール度ほぼ百パーにしたらイチコロだよ。
たまには魔法の詠唱を許しちゃうペアもいるけど、ごっつい盾を持たせてるからなんとか凌げてる。
ちらほら交じってる他の魔物は簡単な罠には掛からず思い思いに暴れてるけど、そこはまあ騎士たちの腕の見せ所。
私はドラゴンゾンビをやらねばね。
ほぼ骨に腐肉がちょっぴりついてるだけなのになんでブレスを吐けるかね?
あー心配ご無用。
私の意識の外から放たれた飛び道具も相棒の釘バットちゃんが現れた時点で認識できるし、認識すれば止まるかとてもスローになるから当たったらそれこそびっくりだ。
ただ私は避けても他に当たると被害がひどそうだから、ここはノックしておくか。
距離があっても大丈夫さ。遠投した釘バットは当たってもスカッても気付けば手の中に戻ってるから。
そう何発でも行ける!
跳ね返された自分のブレスには耐えられても、さあドラゴンゾンビ君はどれくらいもつかな?
ブクマをありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ