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転生令嬢の最強釘バット  作者: 御重スミヲ
10/14

10、茶会


 私だって前世では会社勤めもしてたし、あったかい家庭も築いてた。

 暴力に明け暮れてたのなんてほんの数年さ。

 その節は各方面に多大な迷惑をお掛けしたけどね。

 いま思い出しても……うん、楽しかったなぁ。

 えーと何が言いたいかというと、私は楚々とした令嬢としても振る舞えるってこと。


 侯爵家は高位貴族だけど、その上に公爵家がありさらに王家が存在する。

 浮かぬ顔で私に茶会の出欠を確認してくるお祖母さん。

「私も一緒に行きますからね。でもカサンドラが嫌なら無理に出席することはないのよ? 貴族の女として勉強になるとは思うけれど、主催があの公爵夫人ですから」

 あー私が焼き入れた金髪縦ロールの母親か。

 吊るし上げるためとしか思えないお招きだぁ。

「お祖母様こそ。お気遣いはうれしいですけど、私一人でも平気ですわよ」

 毎日鏡の前で練習させられてる淑女の微笑みを浮かべて小首を傾げれば、お祖母さんは苦笑い。

「わかっているわ。ではそちらのことはカサンドラに任せて、私は旧友と今生の別れを惜しんできましょうか」


 おーこれぞ貴族の女。もう覚悟を決めているんだな。

 この人ならって人を選んで言葉を尽くしても、「考えておきますわ」なんて悠長な返事をされるばかりで、がっかりしてたのは記憶に新しい。

 尊敬するよ、お祖母さん。


 案の定、会場のセッティングも茶葉や菓子のチョイスも素晴らしい茶会だったけど、主催者にもてなす気がないんじゃね。

「あ~らようこそ、よく(・・)いらっしゃいました。先日は宅の娘が大変お世話になったそうで」

「お招きありがとうございます。まあ、そんなお世話なんて大したことはしておりませんのよ? でも、それはよいお声を上げていらっしゃいましたものね、お歌なども得意なのかしら? よろしかったらぜひ!聞かせていただきたいわぁ~」

 母親の威を借れば私に対抗できると錯覚した自分を呪っているのか、足はガクガク表情抜け落ちてんね。

「ど~されました~? どこか具合がよろしくないのかしら~? そんな時は無理をせず少し休まれたらよいと思いますわよ、オホホ」

 ようやるとでもいうように、扇子の陰でお祖母さんは明らかに笑ってるな。


 さすがに自分の娘は心配なようで、侍女を付き添わせて下がらせてから第二ラウンドだ。

「とっても高級な茶葉なのですけどお口に合いまして?」

「ええ、菓子共々大変けっこうなお味です。まさかここまで歓待していただけるとは思ってもみませんでしたわ」

「まあ、それぞれ好みや自分の分というんですの? そういうことを知るお手伝いができたらと思いましてね」

「まあ、公爵夫人は本当に寛大でいらっしゃるのですね。さすがは貴婦人の手本となる方だと感心しておりますのよ?」

「まあ、オホホッ。私などとてもとても。わが国には聖女とも目される王妃殿下がいらっしゃいますからね」


 そうなんだよ。

 貴族たちも全くの馬鹿じゃない。

 歴史もちゃんと学んでるから数十年に一度スタンピートが起こることも、次が千年に一度の当たり年になることもわかってる。

 これまでの傾向からするとアンデットが主流になるってこともだ……うげぇ。

 でもそれに合わせるかのように、あのピンク頭が浄化のスキルを持ってるものだから油断しまくってるわけだ。

 妄信って怖いのぅ。

 私だって自分のスキルは相当に強力だと思ってるけど、スタンピートやその直後からあるに違いない他国の侵略を一人でなんとかできるとはとても思えない。


 侯爵家ではこの危機感を主要な人たちが共有してるから日々、対策に奔走してる。

 各地の魔物の出没件数やその種類など各種情報を集めて精査してる伯父さんによれば、今度のスタンピートは多くの人が思っているより数年早く始まるとのこと。

 あー魔物を間引くのための費用を着服する奴がいたり、辺境では人相手の戦いで手一杯でそちらまで手が回らなかったり、自分がやらなくても誰かがなんとかするだろうって考えてる貴族が大勢いたり……


 はっきり言って、我らが侯爵家は国も他の貴族家も見捨ててる。

 あれだけ蔑ろにされたのだ。そもそも助ける義理はないし、そんな余裕はないっていうのが本当のところ。

 なんといっても時間がない!

 あと二~三年で侯爵領を今世紀最大のスタンピートと、その被害に付け込んでくる他国軍の猛攻に耐えられるようにしなければならない。

 周辺国の多くが今度の遠征で最後って考えてることを、小麦の価格変動から導き出せちゃう伯父さんはすごいぞ。

 多国間ではもううちの国をどう分割するかまで決まってんだろうなっ。


 まあこっちももっと早くから準備できればよかったんだけど、お祖父さんも伯父さんも私と会うまでは夢でも見るみたいにぬるま湯に浸かってたって認めてる。

「目を覚まさせてくれてありがとうな、カサンドラ」

「私からも礼を言う。だからこそ過ぎた時を嘆くよりまだ数年あることに感謝して、これまで以上に邁進しようじゃないか」


 教会によれば私は原初の神の使途らしいけど、私を選んでる時点でその神様は世界平和なんて考えてないだろう。

 私は自分と身内が幸せならそれでいい。

 あれこれしてたのも参加人数が多ければ自分の負担が減るだろうって考えからで、足を引っぱるだけの奴ならいらんわ。


 見事に割り切ったお祖母さんも、割合親しかった人たちに次々お別れを言って不思議な顔をされてもお構いなし。

「お名残り惜しいですけど、さようならですわ。お互い元気で再会できるとよいですわね」

「え? ええ……」

 あなたこのままじゃ命がないわよって、本当に最後のささやかな忠告を正しく受け取れた人が一人もいないのは残念なことだ。


「まあ、聖女ですって? オホホ、オホホ、オホホホッ。わざわざ理を曲げてあの地位にお就きになったのですものね。どれだけ国のためにお手を尽くされるのか高みの見物をさせていただきますわ。オーホッホッホッ! でもでももし失敗なさったら、どう責任をお取りになるつもりなのかしら~。どこかの遠い国では戦争に負けただけで、自軍を極力守って帰った将軍が首を落されることもあると聞きましてよ? ワタクシいまから心配で心配で。だって、ねぇ? あの方とあの方を選んだ方とあの方たちを選んだ方たちのおかげで我が国はずいぶん小さくなって、力もなくしてしまいましたでしょ? これ以上状況が悪くなるようでしたらまったくどうなることかと、大いに心を痛めておりますのよ」


「あ、あなた不敬ですわよ!」

「あ~ら、ごめん遊ばせ? ワタクシ敬愛してる方は他にいるものですから。そんなわけでワタクシ陛下と殿下を思い切り叩かせていただいたのですけど、それについてはどうお考えになります?」

「さ、さすがは狂犬ですわねっ!」

「あら、ありがとうございますぅ~! そんな訳ですから先程は礼儀として褒めさせていただきましたけど、やっぱり豚の口にするものは口に合わなくって。ブヒブヒ、ブヒブヒブヒッ」

「……ぶ、無礼な、なんと無礼な! お前のような者をこの場に呼んだことが末代までの恥です。お下がりなさい!」


「そのお年でピンク色なんて子供っぽすぎる花冠を頂いている方がよっぽど恥ずかしいと思いますわよ? 仮にも貴族なのですから、皆様もよ~くお考えになることですわね。しかしまあ楽しんでいられるのもいまのうちですものね。私もと~っても楽しかったですわ。よろしかったらまたお呼びくださいね。もちろん来ませんけど。ええ、お呼びになれないのがわかっているんですもの、私も人が悪いですわね、ホホッ。それでは皆様ごきげんよ~! ささっお祖母様参りましょう」

「ええ。では皆様ごきげんよう。よい夢を」


 馬車に乗り込む段ともなれば、お祖母さんは含み笑いを隠そうともしない。

「見事でしたよ、カサンドラ」

「お褒めいただき嬉しいです、お祖母様」

 語彙力スキル持ちにはとても敵わないけど、子供としてはまずまず及第点といったところか。

 さすがに「夜露死苦」言うわけにはいかないからさ。

 その他の経験とカサンドラとして受けた淑女教育で乗り切ったわけだが、あの頃の勢いと度胸はいつでもどこでも役に立ってる。


「それにしても、あらためて見ると無様なものでしたね。昔はあれで美しい人だったのに」

 まあ贅沢と運動不足が原因だろうね。しかも身分の高さもあって誰も指摘してくれなかったと。

 女同士の「ちょっと太っちゃって~」「そんなことないよ~ダイジョブダイジョブ」は、ほぼ百パーセント大丈夫じゃないしな。

「そもそも鏡は正直ですのに、それを見る目が甘くなりがちですから」

「言えているわ」

 頷き合った私たちが侯爵邸に帰り着くとすぐ、我らが女騎士とシェイプアップを兼ねた訓練に励んだのは言うまでもない。


 もっとも私の感性は少々変わってるので、戦えるならどんなフォルムでも()でた。

 懐かしいなトンちゃん。

 あの巨体で俊敏、ダンスも上手だった。

 体脂肪率十五パーセントは伊達じゃないぜ。



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