1、覚醒
明け方、夢現に私は前世を思い出した。
地球の日本って国に生まれ育ったアタシ。若い頃はやんちゃもしたけど最期は泣いてくれる人もいたから、それなりにいい人生だったんだろう。
それに比べて今世はクソだな!
もともと気弱でその上ろくに飲み食いできなくてふらふらな私は鳴りを潜めて、何十年も強気に生きたアタシが前面に出てきた自覚がある。
でもまあ一人称は私で統一しておこうか。
一応これでも貴族の令嬢だから。
男爵なんて貴族の底辺だけどなろうと思ってなれるもんじゃないし、そこの令嬢っていうのも簡単に捨てるには惜しい身分だ。
完全に覚醒して起き上がった私はためらわずにベルを鳴らす。
統合された記憶によれば、ご令嬢は侍女を呼んで身支度するもんだ。
田舎の警察くらい時間をかけてやっと現れた粗野なメイド。
そうだった、そうだった。貧乏男爵家に侍女なんて上等なもんはいないんだった。
「あぁん? な~にお嬢様が生意気にもアタシを呼びつけてんだよ!?」
ノックもなしにバンッと扉が開いて、いきなり怒鳴りつけられてもびびる私はもういない。
懐かしくも思える口調に笑みが漏れて、さらに相手の額に浮いた青筋に、ぜひ同じような調子で啖呵を切りたいところだが、私はその誘惑に勝った!
「無礼者」
なんてたって今世の私はお嬢様だからさ。
ぶっとい腕を振りかぶった中年女の動きがとてもゆっくりに見える。
理由はわかってる。
どこからか現れた非常に手に馴染む釘バット。
これを握ってる間はひょろひょろの十歳児の体がシャキッとなって、思うよりずっとスムーズに動ける。
ついでに敵対者の動きののろいことのろいこと。
これが私のスキルかぁ。
いいもんもらったな。
一応、感謝しておこうか神様とやら。サンキュ、チュッ♡
もともとやんちゃしてた時期に少女Aになる覚悟は決めてたし、泥水・残飯・暴力を食らわせられてた相手に慈悲なんかないわな。
ボテボテのストレートを搔い潜り、足を折り腕を折り胴体も適当に小突き回す。
あ~あ鼻水くらいはいいけどゲロは勘弁。
メイドがまったく役に立たないので、もう一度ベルを鳴らす。
田舎の救急車くらいの速さで今度は初老の男が現れた。
家令兼執事ってところか。
まあこんなメイドを放置してたんだから同じ穴の狢。
なんかごちゃごちゃ言ってたけどかまわず釘バットの餌食にする。
使い勝手の良さといい、見れば見るほど前世の相棒にそっくりだ。
ん? そうか、いまの私の体格に合わせて縮小してるのか。
にもかかわらず効果範囲は同じどころか、任意で広げられるなんてすごいぞ。
昔と同じに持ち手のところにチューしてやると薄っすら光る。そうかお前もうれしいか!
実態があるようなないような不思議なバットを手にしていれば、ひょろい十歳児は怪力にもなる。
ボロ雑巾より役に立たない使用人は裏口からポイだな。
一応、王都にあるとはいえ、すぐ隣は平民の居住区って立地。そりゃもう狭い。
裏庭なんてあるんだかないんだかって感じだけど、草むしりしてる庭師がいた。
お、こんなのもいたのか。
二年近く納戸みたいなところに閉じ込められてたからなぁ。
直接に害された覚えはないけど、周りの所業を止めもしなかった輩だ。ヤッとくか?
ボロ雑巾をゴトンと落としてブンブン釘バットを振ると、朴訥とした印象の青年はブンブンと首を横に振る。
ホールドアップした手もブンブン振ってるから逆らう気はないらしい。
まあ降参した奴をいたぶるほど私も落ちぶれちゃいない。
くいっとボロ雑巾を顎で示すと、高速で頷き結構なスピードで引きずり出す。
おう、なかなか使えるじゃないか。
さすがに嵩張って二人一遍には運べなかったから、私はボロ執事を回収に行く。
狭い屋敷の中だ。何事かと様子を見に来た料理番も軽くボコっておく。
こいつは男爵令嬢に残飯しか用意しなかったんだからさ。
「待ってください、待ってください」
ただ、駆け戻ってきた庭師が体を張って庇うので許してやることにした。
一人でも味方がいるってことは、少なくともそいつにとっては存在する価値があるってことだ。
「マーサさんはすごく料理が上手で、俺なんかにも気さくに接してくれるいい人なんです」
あーそうかい。
まあ立場的に雇い主に逆らえなかったってことらしいし。
でも私も使用人に舐められるような立場じゃないってことは丁寧に言い聞かせておいたよ。
お読みいただきありがとうございますm(_ _"m)
ストレス溜まってたんかな~他作の推敲をしてる時に降って湧いた新ヒロイン。
拙作の主人公が力業なのはいつものことだけど、さらに強引というか(当社比)
暴力表現や荒い口調が苦手という方は申し訳ありませんがそっとページを閉じていただき、
少しでもスッキリした、面白い等前向きに捉えられた方はブクマや評価★いいねなどで応援していただけたらうれしいですヾ(*´∀`*)ノ




