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Ⅶ.Magic Item

 ツェツィーリアとクロードがアレックスに連れられて着いたのは、ギルドの奥まった場所にある一室だった。

 貴族のような豪奢さはないが、質実剛健を思わせるような、だが質素ではない立派な部屋だ。部屋の奥には大きな机があり、大量の書類が積み上げられている。部屋の真ん中には一つのアームチェアとハイバックソファがテーブルを挟んで向かい合うように設置されていた。

 床には暗い色の絨毯がしかれ、寒い今の時期にぴったりだ。


「……すまないな、こんな所まで来てもらって。あっちにいたままじゃ騒ぎになっただろうからな」

「気にしないわよ。――あの魔道具、高かったんでしょ?意図的ではないにしても申し訳ないわ」


 アレックスがアームチェアに座り、その向かい側にツェツィーリアとクロードも二人して座る。

 ツェツィーリアの家、ラスティレピド公爵家程ではないが貴族でもないギルドの長の一室にしては座り心地がよい。


「まぁ確かに高いものだが、買い直せないほど高価な魔道具でもないからな。それに、あの魔道具が壊れる程の魔力の持ち主がギルドに入ってくれるんだ。そのメリットを考えたら魔道具のことなんて、そうたいしたものでもないさ」


 そう彼女たちに笑うギルドマスターたる彼の目は笑っていないが、その程度でツェツィーリアが臆することはない。

 彼女はラスティレピド公爵家のお嬢様の前に、魔界の主たるルシファーの一人娘、お姫様だ。悪魔にとって人間など所詮資源(おもちゃ)であり、彼女の前に敵など天使や神以外に存在しない。絶対強者故の余裕。ツェツィーリアがその気になれば、ギルドマスターであるアレックス程度ギルド、いやこの国ごと滅ぼし、殺すことができる。人間が虫けらの生死を気にしないように。

 ここでアレックスが何か仕掛けてきても、無傷で正面から破る自信がある。……まぁその前にクロードがアレックスを殺すだろうが。彼はこう見えて案外短気なのだ。


「――わたくし長ったらしいのは好みじゃないの。だからさっさとお話をしましょう。貴方がここにわたくし達を連れてきたのは、それだけではないのでしょう?」

「あぁ。――単刀直入に言うが。お二人は貴族、またはそれに近い出身だな?」


 アレックスの鋭い言葉に、ツェツィーリアは酷薄な笑みを浮かべる。

 流石ラスヴェート王国の王都にあるギルドマスターといったところか。ツェツィーリアとクロードが貴族らしさ、振る舞いを微塵も隠さなかったのも大きいだろう。ツェツィーリアもクロードも貴族の格好こそしていないが、ギルドに来るためにしたことなんてそれこそ格好と呼び方の変更くらいだ。ローブだって、ツェツィーリアもクロードも魔界にいた頃に着ていたものを流用している。クロードはともかく、ツェツィーリアのローブはルシファー謹製の闇と光の魔法で編まれたものだ。見るものが見れば、それがとんでもない代物――アーティファクト(古代遺物級)だと分かるだろう。


「あら、流石ギルドマスターと言った所かしら。――それで、貴族だから何なのかしら。確かギルドには貴族は登録してはならない、などの規定はなかった筈よ。それにわたくし、家の権力を振りかざすようなことはしてないわ?」

「確かにそのような規定はないが。――相当高位の貴族のお嬢様とお付きに見えたものだからな。学院だってあるだろうに」


 ツェツィーリアの余裕たっぷりといった様子に、アレックスが溜息をつく。これ以上つついても無駄だということを感じたのだろうか。どこか疲れたような様子だ。


「――何にせよ、ギルドに来てくれたんだ。登録をしないとな」


 そう言って、ギルドマスターのデスクであろう立派な執務机にアレックスが向かい、虹色に光る球体が備え付けられた魔道具を持って戻ってくる。

 ――余りにも美しい魔道具だった。見る角度によって様々な色に輝いて見える、不思議な球体だ。黒の不思議な装飾がされた台座に嵌っており、見るだけでそれがそんじょそこらの魔道具とは違うことを感じさせる。唯一つ欠点があるとすれば、球体の中、真ん中に座す金の瞳――目玉だろうか。目玉と言っても、グロテスクという訳ではない。確かに何かの目玉なのだろうが、それはまるで宝石のように綺麗だ。精巧な作り物のようにしか見えない。


「――『ソロモンの瞳』という魔道具だ。遺跡から発掘されたものでね。これに測れないものはないと言われている」


(……『ソロモンの瞳』ですって!?なんでそんなものが此処に……)

(魔界から紛失したと言われていましたが……まさか人間界にあったとは。本物なら彼の言う通り問題なく測れるでしょうけど。ルシファー様に報告なさいますか?)

(報告なんてしたら居場所がバレるでしょうが。それにあれは有名な魔道具よ。なくなったら面倒なことになるわ。それにわたくし、あの魔道具あまり好きじゃないのよね)


 アレックスの持ってきた魔道具を見て、驚いて念話でやり取りをする。顔色には出さないが、二人共ひどく驚いていた。

 ――『ソロモンの瞳』。かつて大昔に、魔界の重鎮たる悪魔たちを呼び出し、人間の癖に悪魔と対等な位置に立ってみせた、恐るべき人間であったとされるソロモンの瞳を加工して造られたという魔道具だ。「すべてを見通す」と呼ばれる恐ろしい魔道具で、人間の魔術師達がこれを造り上げた時はさしもの悪魔も珍しく驚いた。それからなんやかんやあって魔界に回収されたがまたなんやかんやあって紛失したとされていたのだが……。


「――あらゆるものを見通す魔道具だと。書物で読んだ覚えがあるけれど、まさか現存していたとは」

「本来は国宝に分類されるべき代物だが、使い方を見誤らなければ有用な魔道具だからな。嘘と真実の判別もつくし、君たちのような強力な魔力を持っている者の魔力を測ることにも使える。だからギルドが所持しているのさ」

「あの魔道具が壊れることはよくあることなのかしら?」

「いいや、よくあることではない。だが稀にあることではある。……20日前程であったか。君たちのようにあの魔道具を壊した冒険者がいたんだ。普通はあの魔道具で問題ないんだがな」


 ――ツェツィーリア達のようにあの魔道具を壊した人間。


(……人間かしら?)

(分かりませんね。天使の可能性はあります。残存魔力からして、悪魔ではないことは確かですか)


「――長々と話をしてしまったな。……この魔道具に手をかざすだけでいい。それで魔力を測って、ギルドの一員であることを示すギルドカードを発行する。あぁそうだ、その前に登録書類を書いてもらわねば。――ほら、これが用紙だ。言語はラスヴェート言語で頼むぞ。偽名でも大丈夫だが、できれば本名をおすすめする。ギルドカードに印字される名前は……用紙の名前を記入する枠の下にも空欄があるだろう。そこに書けば、基本的にその名前で呼ばれることになる」


 アレックスの言葉に従って、二人は取り出してきた用紙に必要事項を記入し始めた。



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