巡り巡りてその先の、薄暗い密室で何想う
小説家に 『なろうラジオ大賞3 』 応募作品です。
テーマは密室
ガッッ…コン…ガタッ
衝撃を受けて横たわる。
どうやらボクは高い所から落ちたらしい。いや、落とされたのか、落ちたのか、記憶が曖昧だ。薄暗い部屋の中。多分そこから落ちてきたのであろう、上からわずかな光が入る。
(ここは、どこだ?)
木の床、木の壁、木の天井。窓はない。大きな扉が一つあるだけの部屋。ボクの他には何もない。
(…密室?)
どうしてボクは、こんな所に居るんだろう。
今まで、ボクは自由だった。電車や新幹線に乗り、海に行ったし山にも行った。 観光名所やテーマパークを巡った事もある。旅するボクを阻むモノは何もなかった。
道中はもちろん出会いあり、別れあり。巡り巡りてその先で、お土産を買ったり、美味しい物を買う。楽しかったなぁ。
薄暗い密室で、これからボクはどうなってしまうんだろう。淋しくて、不安でたまらない。
薄暗い密室の中。どれくらいの時が経ったのだろう。ボクは外に出る事を諦めた。淋しさは思い出で埋めて、不安を隠し閉じ込められた状況を受け入れる。このまま静かに過ごすのも悪くない。そんな事を考えていた。
ガタッ
突然部屋が揺れた。グワッと持ち上がる様な浮遊感を感じて、次に左右に激しく揺れた。ボクは、ガツンガツンと壁にぶつかり衝撃を受ける。部屋が大きく斜めになって止まり、壁から離れる事ができない。
(いったい何が起きているんだ?)
カチャカチャ…ガチャッ
扉の方から音がした。
(鍵が…開いた?)
ゆっくりと扉が開いて、光が室内を照らす。
カッ…カッ…ガコッ
二回部屋が前後に軽く揺れて、光の方へ大きく傾く。そしてボクは…
「お母さーん!貯金箱にこれしか入ってなかったぁ」
男の子は、手に取った一枚の五百円玉を母親に見せながら言った。
「あー…最近スマホやカードで支払っちゃうから、なかなか小銭が出ないのよね」
「これで本買えるかな?」
「大丈夫よ、足りない分は出してあげるから」
「やった!」
男の子は笑顔になり、ボクを握り締めた。
今度は本屋か。
巡り巡りてその先に、また旅が始まる。