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悪役令嬢だったのでダッシュで隣国へと逃げ出そうと思います。 〜自由に生きたいので溺愛とかは結構です〜  作者: そらいろさとり


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7/8

7.対症下薬



「ソフィア、今日の午後悪いんだけれど父様の代わりに宝石商へといってきてくれないか?」

「別にいいわよ」

「では頼んだよ」



 拠点を、いや()を移してもうひと月。

 日常は作られたそんな日に、まるで少し買い物でも……と、でも言うくらい気楽な物言いの親子だが、この父の言う宝石商は加工前の石を扱い、それを目利きし良いものだけを選定して買ってこいとの会話なのだが日常会話のように済ませられる。



「護衛は数名連れて行きなさい」

「そうね」

「ソフィアは目が効くからね。やっぱりいてくれて助かるよ」


 交わさる会話の最後の一言は婚約破棄されたソフィアに少し刺さるものもあったが、何ごとも無いように微笑み、そして支度をしようと部屋へと返った。





*****




「やぁ、また会ったね」

「…………そうですわね」


 ソフィアが取引先にてジトっとした瞳で見つめるのは、引っ越して早々の頃に出会った美丈夫。


 茶色の髪に紅色の瞳。何よりもそれ以上に忘れられないほどに整った顔の作りは誤魔化しようがない。

 一瞬取引相手かと思ったが彼はソファの手前に座り、向かいには厳重そうなバッグを持った男が既に座っているので、それはこの男は買い手であり、そしてソフィアのライバルになるのだと示していた。



「お2人はお知り合いで? まぁそれはさておき、始めましょうか?」


 挨拶もそこそこに向かいには座った男は微笑んで席につくように促すと、ソフィアは仕方ないとばかりに美丈夫の隣へと座った。




 それから挨拶もそこそこに、説明されながら出された大量の宝石。

 しかしその中からソフィアが取り分けたのはたった一つ。隣の美丈夫はそれ以外を全て買い取るのか、目の前に全てを寄せる。


「ねぇ貴方……」

「ん?」

「……少し、考えた方がいいわ」

「そうかな?」


 ソフィアはそれだけ告げれば目の前の売り主からゴホンと咳払いをされた。


「カルナルディ様はそれだけでよろしいのですか?」

「充分よ」

「ドライフル様は、それを全部買われるとなると……失礼ですがお手持ちはございますか?うちは現金のみですので」

「そうだな。まぁ、これは厳禁だな」


 なんだか発音が違ったとソフィアが思うより前に、ソフィアの肩は抱かれていて美丈夫が手を前に出すと、周りで何かが当たる高い音がする。



「!?」

「とりあえず違法取引の現行犯でここにいるソフィア嬢以外は警備兵に引き渡す」



 ソフィアは何が起きてるのかわからないと目を白黒させて周りをみれば、自分たち2人の周りに透明のシールドが貼られていることに気がつく。


「なっ、なんですの!?」


 慌ててその腕から離れようとすれば、彼は微笑み「離れないで。俺から離れれば君もシールドの外に弾き出されてしまう」と言われれば、明らかに怪しい男たち囲まれたこの状況で外に出されれば人質にされるか、共にこの男に制圧されるかしかないのだと察して、彼へとしがみつく。



「いい子だ」


 美丈夫はそう言ってソフィアの額にキスをして「グラビティ(重力)」と唱えると、周りの男達が一斉に苦しそうな声と共に膝をつく。


「魔法!?」

「そうだよ。はじめて見る?」

「え、えぇ……っ」


 制圧されるにしてもこんな方法だったのかとソフィアは震える手のままにその彼に捕まっているうちに、まだ立ち上がろうとする男に美丈夫は指先を向けて下へと降ろせば、更なる圧が掛かるのか、骨の軋む音と共に苦しそうな悲鳴が聞こえる。


 ソフィアは耳を抑えたいがその手を離す訳にはいかないと、蒼い顔で目を瞑るのを見て、美丈夫は指をパチンと鳴らすと圧もシールドも解けたらしいとソフィアが思った時、おもむろに彼女を抱き上げた。



「もういいね。あとは警備と……」

「ソフィア!!」


 扉が開き、名前を呼び駆け込むように入って来たフランに美丈夫はニコリと笑って、



「主人の名を呼び捨てるような礼儀のないカルナルディ家の騎士も、警備兵と共にこの者たちの連合に協力してもらおうか」

「……畏まりました」


 告げられた命令の言葉を受けて、一瞬ソフィアも見るが頷かれればフランは心配そうに、それでも言われたままに中へと入り、制圧された人々を捕まえてゆく。



「……もう大丈夫ですわ。降ろして下さらない?」

「嫌だよ」


 また敵陣のアジトの中を少し歩いた頃に、ソフィアが言えば、美丈夫は嬉しそうに断りの返事をする。


「重いですわ」

「君の愛が?」

「おふざけにならないで下さいませ!」


 ソフィアが声を荒げれば、美丈夫は声を上げて笑ったのを、ソフィアは眉を釣り上げて不満を示す。


「悪かった、ごめん」

「謝ったからと言って許すとは限りませんわ」

「そうだね。それでいい」


 その返事の意味が気になってソフィアがその顔を盗み見れば、目が合い嬉しそうに笑われてしまう。


「何がそんなに可笑しいのですの?」

「噂と違って、君の表情が変わるのが嬉しいんだ」

「噂……」


 自分のされる噂など、例の件だろうと眉を寄せれば、そこへとキスを落とされた。


「なっ!!」


 額に手を当てて驚けば、美丈夫はいいことを思いついたとばかりに一度瞬きをすると、満面の笑みを浮かべると改めてソフィアを見て、


「ねぇソフィア、俺と結婚しない?君と居ると楽しい毎日がおくれると思うんだ」


 ソフィアが思わずその頬を叩いて、


「断固拒否ですわ!!傷心の身に揶揄わないで下さいませ!!」

「傷心?」


 不思議そうに返された言葉に、まるで今更自覚したかの様にソフィアの目からポロリと涙が溢れると慌てて拭い、



「降ろしてくださいませ。どこの誰かは存じませんがあんな硝子商捕まえられたとて、わたくしにメリットも何もございませんわ」

「硝子商とは上手いことをいうね」

「宝石とは名ばかりの硝子。その他も宝石と言うには質の悪いものでしたわ」

「流石、良かったのは君の手に入れた魔石のみかな」


 そう言って降ろされて目の前に出された手はソフィアがあの場で無意識に持って来ていた魔石を出せという意味かと察して、仕方なくそれを出そうとするが……、



「あちらを向いていてくれませんこと?」

「ん?」

「その……胸の谷間に……」


 ソフィアが恥ずかしそうに胸元に手を当てる様子に美丈夫が気が付き、それならば仕方ないと視線を逸らし、しかしその服の胸元を思った以上に開かれるのが見えて慌ててソフィアを降ろして背中を向けた。



「ちょっとお待ちください」

「肌を傷つけては大変だからね」

「そうですわね……、イタッ。もう少しお待ちを……」


 ゴソゴソと衣擦れの音に流石の美丈夫も少し気まずそうにして、


「なんなら取ってあげようか」


 そんな軽口を言ったところで返事はなく慌てて振り向けば扉は開き、慌てて窓の外を見れば舌を出して馬を走らせるソフィアが目に入った。



「やられた」

 不機嫌そうに去るソフィアと、そう言いながらも楽しそうな美丈夫は、ソフィアが見えなくなるとコキコキと首を鳴らすと、



「さて仕方ない。仕事をするか」


 そう言うと茶色の髪は銀へと変わり、朗らかだった顔は精悍と呼べるほどに変わると、その脚は躊躇いなく先程の部屋へと向かっていった。



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