5.我願夢叶
「おはようございます! ソフィア様」
翌朝に移動を再開しようとソフィア一家が宿を出れば、馬車の並ぶ前で深々と頭を下げてパックが居た。
「あらパック、何してるの? もう頼むことはないわ。帰りなさい」
緊張した面持ちのパックなど気にも止めずに横を通り過ぎれば、パックはもう一度向き直り頭を下げる。
「ソフィアお嬢様の靴磨きでもなんでも望まれる事を致します! ですのでどうか……!! ボクの夢を叶える為にお嬢様のお側に置かせてください!」
「夢? そんなもの自身で勝手に叶えなさいな」
とりつくしまもないような反応をされても、パックはめげずに言葉を続ける。
「いえ、ボクの夢はお嬢様の側でしか叶える事が出来ません」
「貴方の夢に何故私が付き合わねばならないの?」
ソフィアがそう冷たい目を向ければ、パックは顔を上げてその握りしめていた手を広げれると、そこには昨日ソフィアが渡したイヤリング。
思い出したくも無い思い出に、微妙に頬が引き攣るソフィアを正面からパックは見つめ、
「お嬢様がこれを……、いつかそのソフィア様の魅力に気が付かなかった馬鹿男が現れた時に叩きつけ、その時にお嬢様の美しさに跪くとろこを見させて下さい!!」
「は??」
ソフィアにしては間抜けた顔で返事をすれば、パックは堂々とした笑みでその手へとイヤリングを乗せて、
「ボクはこんなに美しい方と出会った事がありません! ボクには足りない事も多いし、迷惑かけることもあると思います! でもその馬鹿にまた合うまでに死に物狂いで学びます!! どうかチャンスを!!!」
「面白いけど、わたし男の従者を雇うつもりはないのよ」
「なら女装でもなんでも望みのままに頑張ります!」
「は??」
驚いたようにソフィアの目が点になれば、隣にいた両親と兄が吹き出した。
「ソフィア、面白い子を拾ってきたな!! 流石お父様の娘だ!! そこの君、面白いから付いてきなさい。なぁに、ソフィアは良い子だからね、そこまで言ってくれた君を捨て置いたりしないさ」
「ちょっとお父様!?」
「だってソフィア、君も面白そうだと思っているのだろう?」
目元の皺を深めて笑う父にソフィアも一度呆れて口が開いたが、その口元を胸元から出した扇を開き隠すと、
「そう言うならば付いてきなさい。あんな馬鹿男2度と会う気も無いけれど」
そう言ってパックへと近づくと、その手の耳飾りを小さな袋に入れて、改めてその手に戻す。
「わたしそれをもう触りたくは無いのよ。だから万が一に会った時はあなたの願いを叶えてあげるわ。それまでそれを持って側におりなさい」
胸を張って言うソフィアに、パックはソフィアの言った意味を理解すると頬を染めて「はいっっ!」と大きな声で返事をした。
「あ、それと顔は悪く無いのだから、よく食べて良く寝て、わたしの側に立っていても遜色なくなさいな。こんなガリガリ連れていたら恥をかくわ」
申し訳なさそうに頷くパックに、ソフィアの兄は微笑みながら、
「沢山食べて大きくなりなって事だよ」
そう伝えれば「ふんっ」とソフィアは馬車へと乗り込んだ。
そしてパックは胸の中に味わったことのない幸福感に満たされ「頑張ります!」と意気込みを馬車へと向かって叫べば「喧しいわよっ!」と……照れ隠しの扇が飛んでパックのオデコに直撃した。
5話にして四文字漢字に挫折気味。
無理無理詰め込んでいきます(笑)




