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悪役令嬢だったのでダッシュで隣国へと逃げ出そうと思います。 〜自由に生きたいので溺愛とかは結構です〜  作者: そらいろさとり


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1.先手必勝





ーーーそこは貴族の舞踏会。


 長い髪をたなびかせこの国の第二皇子であるセントリックは、儚げな桃色の髪をした女性を横に付けて、甘い言葉を囁きながら、今か今かとその大きな扉が開くのを待っていた。


 周りの舞踏会を楽しみに来た貴族達も、そのいつもと違うその雰囲気に言葉は少なく、時折様子を伺うように皇子を見つめる。



 そしてついに音もなく開いたその扉から現れた人物に向かってセントリックは物々しく叫んだ。




「ソフィア・カルナルディ!君は僕の愛しき恋人ミシリーを故意に傷付け、我々の顔に泥を塗った罪を懺悔し、そして僕は今ここに君との婚約を……………って、誰だ君は」



 現れた人物は名前を挙げたソフィアと歳の頃こそ近いが、ソフィアの真っ赤な巻き髪とは対照的に、水色のストレートの御令嬢が立っていた。



「あ☆ 盛り上がってるところすみません。これ、先程お名前を呼ばれていたソフィア様からお預かりしたお手紙です。どうぞ」


「あ……あぁ、すまないな」



 先程までの怒号の様な声はどこへやら、彼は素直にそれを受け取ると手紙を渡した御令嬢は「それでは」と綺麗なカーテシーを皇子へと送り舞踏会の中央よりまた外へと向かう。



 誰しもポカーーーンとする中、王子の隣の儚げな少女は可愛く拳を口に当て「何のお手紙でしょうか?」と聞けば、我に帰った様にセントリックはガサガサとその封を乱雑に破って開ける。



「なになに……これはソフィアからの手紙だな。……確かにソフィアの字だ。なに……今読み上げるさ、


『親愛なる…親愛だった?いや、その辺はまぁいいや。なんか政略的なやつで婚約者だったセントリック様へ♡


 多分セントリック様のご希望通り国外追放される前に国外追放されますね!!行き先は勿論国外です。

 あと勿論婚約破棄して下さいね!わたしは幸せになりたいので!!

 セントリック様は、このわたしに有りもしない罪をなすり付けてそこでうふふって腹黒いのに可愛らしく笑ってるミシリーこと性悪女とお幸せに♡

 でもやられっぱなしは性に合わないので、あらぬ罪の濡れ衣だけは晴らして行きますね。

 沢山お金掛かっちゃったけど、まぁセントリック様の隣で最初の二年くらいは楽しかったから、その分で仕方ないと広い心で大目に見てあげます。

  元婚約者ソフィア・カルナルディ

 あ、土下座しても婚約し直さないので、そこんとこはご了承ください 』


……って、なんだこれは?文字は確かにソフィアだが…この文面は…」


「しょ、性悪だなんて……最後までわたしに……」



その可愛らしい大きな瞳からポロリと涙が落ちた時、突然天窓から何か紙のような物が落ちてきた。



「敵襲か!!?」


 そう叫び可憐な少女を背に守る様にして、思わず落ちてきた紙を手に取れば、それは最近発明された『写真』という、その場の映像を切り抜いたもの。



 その写真には自分のカバンを無表情で傷つけている……隣の可憐な少女が写っていて、セントリックが思わず床に落ちた次の紙を拾えば、誰もいない場所で池にそっと入って行く可憐な少女。次はセントリックに貰ったペンをゴミ箱に捨てる可憐な少女……。




「あのペンは……ソフィアに奪われたと。それに池にも押されて……」

「ご、誤解です!!これはきっとソフィアが上手くうつらない様に写真を……!」

「君は……上位貴族であるソフィアを呼び捨てにしていたのか?」

「いえそれはつい、誤解で……」


 怯える様に呟く声に、今更向けられる目はもう甘さも愛情も見えはしない。ただセントリックは苦々しく奥歯を噛み締めた。



「僕は……、いや、とにかく宴は終わりだ!!写真は回収し、一枚たりとも外に持ち出す事は許さん!!自衛団から誰かソフィア嬢の屋敷に人をやれ!!!そして彼女を僕の元に連れてくるのだ!!!」



 そんなざわざわとする人混みの中、口元を押さえて楽しそうに笑う美丈夫が居たのを混乱する中では誰も気に留めなかった。




*********




「今頃舞踏会は大惨事かしら!」


 楽しそうに馬車に揺られながら噂の主のソフィアは口元に手を当てて笑う。



「大丈夫なわけがないだろうなぁ。お父様もこの目で見たかったくらいさ」

 そう言ってソフィアの父が腕を組み楽しそうに笑えば、


「セントリック様も見る目ないわよね。あんなの同性からみたらあざとさオンリーのぶりっ子じゃないのね」

 頬に手を当てて母は呆れたようにため息を吐く。


「いや、俺から見ても嫌だな。周りの人間に媚び売って、俺にも擦り寄ってきたぞ」

 あぁ嫌だ嫌だとソフィアの兄であるトリニルが言えば、うんうんと両親が頷く。



「でも良かったんですか? 一応我が家は侯爵家ですよ? み〜んなで全部捨てて隣の国に移住だなんて」


ソフィアが念の為だと聞いてみればみんなが笑って頷いた。


「大丈夫!お父様は商才があるからね!それじゃなくとも隣国から再三『爵位をあげるから我が国へ』なんてアプローチがあったしね。まぁ爵位はどぉ〜でも良いけど、あると箔がつくからね。貰えるもんは貰って、また新天地で前以上に稼ぐ気満々だから!」


 イエイッとピースサインする父に母も続いてイエイッとすれば、ソフィアの隣に座る兄がポンポンと頭を撫でる。



「そんな訳でさ、いやぁ俺は婚約者だどーのってのから逃げてた分、更に気楽だな。ニィちゃんはイケメンだからね!どこに行ったってなんとかなるさ」


 そうなんでもない出来事の様に笑う兄も、父と共にその引き継いだ商才を振るい、父とはまた違う若い世代にも「カルナルディ商会」を広め、2人で夜な夜な売り上げを競い合っている。



「お兄様にお父様、それにお母様も一緒なら心強いですね」

「だろう?」



 皇子の使いがもぬけの殻のカルナルディの屋敷についた頃、そんな会話をしながらカルナルディ一家は楽しそうに既に国境を抜けていた。





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