第9話 ご臨終です、俺
俺がひとしきり泣き終わると、「成長したね、はいおしまい」とはならず、俺はそのまま次の魔物の群れへと放り投げられる。
次は狼型の魔物の群れだ。5体もいる。
……これ、本当にいけんのか?
「そいつらはシルバーウルフだね。1匹ボスがいるはずだからそいつから倒すことをオススメするよ。あと獣型は人型とは戦い方が結構違うけど、まあその辺は実際にやってみよう」
とサーシャが言うと同時に、シルバーウルフが5匹同時に襲いかかってくる。
「まじかよっ!」
俺は後ろに飛びずさり、ひとまず距離を取る。シルバーウルフは唸り声をあげながら、じりじりと俺を取り囲むように距離を詰めてきた。
こうして対峙してみてよくわかった。こいつら……めちゃくちゃ戦い難い!
今まで散々組手をしてきたサーシャはもちろん、ゴブリンも人型だ。つまり縦に長い直方体の形をしていて、突きや横払いは当てやすい。
しかしこのシルバーウルフは奥行きのある直方体だ。正面からだと当たり範囲が狭いし、位置も低い。有効なのは突きか? そして攻撃の予備動作も全然分からん。人型なら移動、手を振り上げる、下ろすと言った攻撃手順を踏むが、こいつらの武器は噛みつきだ。移動が即攻撃動作だ。やりにく過ぎる……。
とはいえやることは一緒だ。俺は腹をくくって走り出し、俺を半円状に取り囲むシルバーウルフのうち、1番左のやつに突きを入れる。
悲しいことにその突きは軽く身を捻ってかわされた。その隙に残る4匹が走り寄る気配がする。俺はまたもや距離をとった。
やばい、全然いける気がしない。どうする? 考えろ、俺。考えろとか思ってる暇があったらマジで考えろ!
シルバーウルフは再度囲むように距離を詰めてくる。涎を垂らして興奮しているくせに、攻め方は至って合理的だ。嫌になるぜ。
とにかく正面からじゃダメだ。どうにかしてやつらの横か後ろに回らないと。
俺はシルバーウルフにパイプを投げつけて、一目散に逃げ出した。
「ガルルルルッ」
「ガウッ」
もちろんやつらは追いかけてくる。俺はそのまま走り続け、背後からどんどん距離を縮めてくるシルバーウルフの唸り声を感じながら森の中に飛び込んだ。
シルバーウルフも森に飛び込む。バカめ。ここは俺のテリトリーだぜ。
俺は木の枝を掴むとそのままくるんと回転して木の上に着地して、ひょいひょいと高いところへ逃げる。
木の幹の周りを囲って威嚇しているシルバーウルフに向かって、俺はパイプを投げつける。投げつけて投げつけて投げつけまくる。ハハハ、地を這いつくばるしか能がない虫どもめ。殺してくれるわ。え?全然卑怯じゃないよ。勝ったものが正義なのだ。
「しかしどうしようかな……。パイプを投げるくらいじゃ決定打にならないな……」
事実シルバーウルフは更に怒りを増しているだけで、弱ってはいなさそうだ。困った。
「そういえばサーシャが言っていたボスってどいつだ?」
俺はシルバーウルフを観察する。
……よく見ると、1匹気持ち体がでかい。あいつか?
そう思ってみると、5匹の鳴き方も、まず体がでかいやつが何か吠えた後、残りの奴らがバウワウ適当に吠えているようにも聞こえる。多分そうだろう。
よし、あのボスっぽいやつにヒットアンドアウェイ作戦でHPを削っていくぞ。やつの足でもへし折れたらだいぶ状況も変わってくるだろう。
俺はボスに向かってパイプを投げ、木から飛び降りる。ボスがジャンプしてパイプを避けたところに新たなパイプで殴りかかった。俺のパイプがボスの横腹を殴打する。
「ギャウンッ」
まだ弱いッ、もう離脱しないと、いや、あと一撃!
俺はボスの喉元に突きを入れた。
「いでぇ!」
足に痛みが走った。やられた、噛みつかれたのだ!
俺の右足に喰らい付くシルバーウルフにパイプを振り下ろすうちに、更に左腕を噛みつかれた。
クソっ!
痛みもそうだがこいつら、クソ邪魔だ! 噛みつかれると一気に行動が制限されるのか!
喰らい付いて離れないし、何十キロもあるクソ狼を装備したまま動けるわけがない!
やべえ、死ぬ……かも……。
1匹のシルバーウルフがその汚ねえ口を大きく開いて俺の首元目掛けて飛び上がるのが見えた。
俺は死を覚悟して咄嗟に目を瞑る———。