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第1話 はじめまして、死

 鳩が無意味に糞をするように、俺の人生も無意味だ。


「クソっ。ケツの穴から串突っ込んで焼き鳥にしてやろうか」


 通勤途中で肩に落とされた糞をテッシュで拭きながら、電線の上でたむろするクソ鳩どもを睨む。何がくるっぽーだ。心なしか俺を馬鹿にしているように見える。絶対に焼き鳥にしてやる。


 確かに俺の人生はこのクソ漏らし鳩どもにも劣るかもしれない。


 朝起きて会社に行き、目の前のタスクをチャカチャカこなして帰って寝る。毎日毎日が同じことの繰り返し。はっきり言って退屈だ。これがあと数十年も続くのかと考えると、気が狂いそうになる時もある。


 そのくせ、別に自分から何かをするわけではない。「何か楽しいことないかな」と口癖のようにぼやくくせに、普段やっていることは漫然とSNSを眺めることぐらいだ。


 ただただ惰性のように過ぎる時間に身を任せている。


 そうこうして気づけばもう30才だ。彼女もいない。友達と呼べる人もいない。クソを漏らすことしか能がないあの鳩でさえあんなに群れているのに、俺は独りだ。狂ってやがる。


 いや、鳩に劣るかも、ではない。確実に鳩の方が俺より幸せだ。腹が減ったらゴミを漁り、うんこをしたくなったら所構わずぶちかます。俺よりもずっと自由だ。もし今ここで俺がうんこをしたら即逮捕だろう。別にしたくもないけど。


 小学生の女の子2人組が、鳥のフンを一生懸命拭きとる俺を見ながらくすくすと笑って俺の前を通り過ぎる。うるせえ、俺だって好きでこんなことしてる訳じゃない。うんこ投げつけるぞ。


「おっけーい、おっけーい、おっけーい」


 電線から俺を見下すクソ漏らし鳩の向こう側で、ビルの改修工事をする作業員が声をあげている。長いパイプを何本も紐でくくって釣り上げているようだ。


「おっけーい、おっけーい、おっけーい」


 何がおっけーいだ。俺は全くオッケーじゃない。俺の人生でオッケーだったものなんて、なに1つとしてなかった。


「おっけーい、おっけーい、おっけーい」


 俺はため息をつく。


 はぁ。死にてえ。いや別に死にたくもない。ただ生きるのもめんどくさい。


 ……はぁ。


 そのため息に呼応するように、作業員が釣り上げるパイプの紐がほどけた。


 バラバラと空中に撒かれるパイプたち。その下には俺を笑った女の子たち。


 は?


 危ない!と声を出すよりも先に、俺はとっさに女の子たちを突き飛ばしていた。鳥のフンを触った手だけど許してくれ。今はそれどころじゃない。


 それにしても、俺がこんなに素早く動けるなんて自分でも知らなかったな。この時の俺はウサインボルトよりも速かっただろう。知らんけど。


 落下したパイプが地面を叩き轟音をあげる。


 突き飛ばした女の子たちがどうなったか、俺は知らない。


 俺が知っていることは、1つだけだ。


 落ちてきたパイプのうち1本が、見事俺の脳天に突き刺さったことだ。


 串刺しになったのは鳩ではなく、俺だったようだ。


 ははっ、笑える。


 こうして俺の小説にしたら1行で終わるような詰まらない人生は幕を閉じた。

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