第1話 終わりに向けて(1)
「あれからもう五年かぁ…」
そう《RGO》をプレイしてから既に5年の月日が流れていた。
私も当時は、高校一年生
そして、今は大学二年生
月日が経つのは早いものですね。でもそれだけ夢中でプレイしてたってことなんだろう。
そんな事を考えていたらいつの間にか夕陽が出る時間帯となっていた。
今日の夕陽は、いつもと違って美しいだけじゃなくどこかに引き込まれるような不思議な魔力を感じた。
その夕陽を見ていると突如それは起こった。
《RGO》での私達が経験してきた様々な冒険の記憶が走馬灯こように駆け巡った。
どれだけ時間がたったのだろう?
数秒にも数時間にも感じられる不思議な感覚。
「スズカ」
不意に私の名前が呼ばれた。
後ろを振り返ると夕陽に照される美しい紅色の髪を靡かせた一人の美しい女が立っていた。
「どうしたの?狐に摘ままれたような顔しちゃって、まぁ本人も狐だけど」
美しい女はニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
小さい頃のイタズラが成功した時と同じ顔だ。美人になってもそういう所は変わらない。
私は先程の影響が少し残っており少しぼんやりとしながらも美しい女の名前を呼ぶ。
「アセルきてたんだね」
この美しい女の名前は、アセル。
私達のパーティ《茨ノ園》のメンバーで頼れる前衛だ。
「それにしても、気配を消して背後に立つなんて…ちょっとイタズラが過ぎるんじゃないかしら?」
視線をアセルの灼眼に合わせる。
「私が寛容でなかったら攻撃されてかもしれないわよ?」
この表現は、誇張でも何でもなく《RGO》ではPKが遊び方の一つとして許可されている。
背後から気配を消して近付くのは敵対行動とみなされ攻撃されても文句は言えないというがこのゲームでの常識だ。
また、PKの数が条件となっている特殊系統職の解放やPKした相手の持ち物や所持金を奪える事から一定数、PKをする者がおり専門のパーティやギルドもあるくらいだ。
「……」
たがアセルは、何も言わずただじっと私の眼を見据えている。
二人は暫く見つめ合う
しかし、耐えきれなくなり私から視線を逸らしてしまった。
「フフフ。勝ったなWINNERアセル!」
一一(*’ω’ノノ゛☆パチパチパチパチ
アセルの笑い声が漏れ、唐突な勝利宣言と共にどこからともなく拍手と勝利のファンファーレが聴こえてきた。
おそらく課金アイテムの効果だろう…。
「もう。とりあえず私の負けでいいけど、どうしてこんな事したのか教えてよ」
私は、ジト目を向けながらアセルに問う。
「言う必要ある?本当はもう答えわかってるくせに」
と笑いながら私の頬をつついてくる。
「ぐぬぬ」
私は歯噛みしながら不機嫌な雰囲気を出しつつも、心を落ち着かせかせるために眼を瞑り精神統一をする。
うん。さっきまでは少しぼんやりしてたけだ落ち着いてきた。冷静になって考えればアセルの行動の意味を理解するのは難しいことじゃない。全ては私のためを思っての行動なのだから。
実は私とある迷宮の迷宮主なのです。
迷宮主にはある制約がありその一つに迷宮主が死ぬか迷宮核を破壊された時は迷宮が崩壊するというペナルティだ。ただ、課金アイテムを事前に使えば仮に迷宮主が死んでも迷宮核が破壊されない限り迷宮が崩壊することはない。
そんな迷宮主の私が迷宮外で従魔も連れずに夕陽を見ながら黄昏ていたのだ。迂闊にもほどがある。一応何か不足の事態が起きても即座に対応できる自信はあるけどね。たが、アセルの気配に気がつけなかったのもまた事実。
(あの時は少しぼんやりしていたがそれは言い訳にしかならない。知らない間に私も傲っていたのかもしれないわね。改めてそれに気がつかせてくれたアセルには感謝しないとね。まぁ後ろを取られた事はちょっとムカつくけど…)
一ーパンッ!
突然大きな音がした。
思考の海に沈みかけていた私は現実に引き上げられる。
そして、そのままアセルの顔を見た。
「とりあえずこの話はスズが自己完結したみたいだからとりあえず脇に置いておくとして、さっきはなんか黄昏てたみたいだけど…何か悩み事?」
アセルは先ほどの強気な笑顔から一転して心配そうな顔をして尋ねてきた。
私は、首を横に振り質問に答える。
「え?違うよ!ただ…あの夕陽を見ていたら急に今まで私達がしてきた冒険の事を走馬灯みたいに思い出しちゃってっさ~」
アセルは何か嫌な予感を感じた。
「なるほどね。でも急に走馬灯を見るなんてそうあることじゃないし少し心配かな」
アセルは聡明な頭脳で即座に考える。
(昔から勘が鋭い子だったから何かの前兆じゃなければいいけど…スズの身体も心配だしとりあえず提案だけしてみるか)
アセルは決心して口を開く。
「スズ、別に今日絶対行かなきゃ行けない訳でもないし今日は遺跡に行くのやめてまったりお喋りとかしながら過ごすのも悪くないと思うよ?」
一応提案はしてみるが…
「私は全然大丈夫だよ!アセルが心配してくれるのは嬉しいけど、既にリーンが情報屋ギルドのマサおじさんに遺跡や付近の情報を買いにいってるもん。
それに…未発見の遺跡探索なんだから早ければ早い程いいだろうしね!」
アセルを心配させないために敢えて力強く言い、胸を張って見せる。
(アセルが心配するから一応確認したけど身体の調子は良い。やっぱり夕陽を見て感傷に浸っていただけだったんだろうね。運営のサプライズとかだったのかな?)
それに未発見の遺跡探索はスズカ達にとっても久し振りということもあり楽しみで仕方ないというのがスズカの本音なのだろう。
「わかった。たが身体の調子が悪いと感じたらすぐに私かリーンに言ってくれ。約束だぞ?」
アセルは私の横に腰掛けなから何か確かめるように言った。
「大丈夫よ!もし何かあったら二人にはすぐ知らせるから心配しないで!」
「分かったわ。無茶はしないようにね」
そう言いながらスズカを見つつアセルは考える。
(まぁ私とリーンがいれば無茶な事はしないと思うし、してもすぐ止めればいい。今はとりあえず様子をみるしかないか)
そうアセルは結論づけた。
ちょうどその時だった。
迷宮の入り口前に、まだ幼さの残る女が一人転移してきたのだった。
次話はなるべく早く投稿できるように頑張ります!
アドバイス等もお待ちしております。