陣内の趣味
ボクは少し話題を変える。
「そういえばさ、さっきの“ハンマー持ってパラシュート”の話ってホンマなん?」
ボクが訊くと陣内はニヤッと笑って「さあ~」と答えるから、ボクも「なんでやねん、さっき言ってたやんけ」と笑う。
「いや、あれは超うろ覚えやねん。
昔、デッカい本屋に行った時にな、小学生が使う国語辞典ぐらいの大きさの、上等じゃないけど丈夫そうな紙の『殺人術』って本があってな」
「殺人術?」
「隣に、書いてる人は違うけど同じシリーズらしい『暗殺術』とか、他にもなんか並んでてんけどな」
「陣内、誰か殺したいんか?」
「アホか。
オレ、趣味で小説とか書いてんねん。
ネットで投稿してるぐらいしかしてないけどよ。
だから、そんな本とか見かけたら、資料として読んどきたいやんけ」
そーいえば、そんなこと聞いたよーな気がする。
「で、それって、格闘技の本みたいなやつなんか?」
「いや、『殺人術』と『暗殺術』をペラペラっと立ち読みしてんけどな、なんつーか組織とか部隊とかで教えてるポイント紹介みたいな本」
そー言って、陣内は左手で自分の顔を抱えるみたいにして首の後ろにまで手を回した。
「例えば公園のベンチに座ってる相手をナイフで刺し殺す時は、こんな風に後ろから相手の首に手を回して……」
そう言って、左手に引っ張られるみたいに顔を左に向けた。
「……相手の顔を真横に向けさせてノドの下の辺りから心臓に向かって刺すとかよ」
ほうほう、そりゃあーリアルっぽいな。
「で、本の後半の方が隠し武器とか2人がかりで相手が抵抗できへん姿勢で担いで拉致する方法とかの雑学みたいなやつでさ、パラシュートの話も、どっちかの本の後半に載ってた話やと思うんやけど、キチンと読んでへんのよ」
「なんで?」
「いや、金を出すのんもったいないから、図書館で取り寄せようと思ってたからさ」
「ああ、なるほど」
「それがよ、堺市の図書館に蔵書が無くて大阪市の図書館からの取り寄せになるって話やってさ、なんか怖くなってヤメてん」
「なんで?」
「だって、そんな手間暇かけてまでして借りたって記録が残ったら、なんか警察とかの怪しいヤツのリストとかに載せられてしまいそうやん」
「そんなワケあるかっ」
ボクらは笑う。
「でも、「こんな本、そこまでして読みたいんや!?」って、図書館のお姉さんに思われそうでイヤやん?」