誰だって……誰だっけ?
「で、平良、実際どーやったん?
どんな感じやねん?」
ボクはどー答えたら的確で簡潔なのか、少し迷った。
「そーやなー……スゴくザックリ言うと、オレの生活の中に空白の時間帯がある。
自覚したんは学校が終わってからどんな風に過ごしてたか思い出されへんってことで、たぶん、それはここ数ヶ月のことやと思うねん。
でも、陣内の話を聞いて考えたんやけどな、学校の中のことも授業を受けてた記憶はあんねんけどな、それ以外のプライベートって言うんか普段って言うんか、どんなヤツと喋ってどんな風に過ごしてたかの記憶が歯抜けみたいになってる……。
あと、上手く説明できへんねんけど、変にスベるんよ……」
「スベる?」陣内はズボンのポケットに手を突っ込んで、「ん?」って顔で復唱した。
「ウケへんとか?」
「そーゆー話とちゃうわッ
なんて言うたらええんかなー、トンチンカンなコトをしたり一人芝居とみたいなことをしたり言うたりっていうのか……」
「ほお……」
ボクの説明はピンと来なかったみたいで、陣内の返事は歯切れが悪い。
ボクはちょっと居心地が悪くなって、ユーモアみたいなことを挟んでみたくなる。
「まあ、鴉谷には「元から独り言が多いやろ」ってツッコまれたけどな」
ボクはそう言って笑ってみる。
陣内も少し笑う。
笑って、ホントに、ホントにホントに何気ない素朴な疑問のように訊いてきた。
「鴉谷って誰よ?」
ボクは少しクラッとする。
「いや、「誰よ?」って、鴉谷やん?
同じクラスの」
「同じクラス……?」陣内は「んー……」という顔で空を見上げる。
もう、すっかり暗くなっていた。
「いや、だから鴉谷やん?
同じクラスの」
「さっき聞いたっちゅーねん。
壊れたロボットか、お前は。
どんなヤツよ?」
ボクは“下駄箱のロッカーの前で会った鴉谷”の姿を思い浮かべる。
あの背丈と雰囲気で、クラスで目立たないタイプとは思えない。
「陣内と同じか少し背ぇ高いぐらいかな?」
陣内も背は低い方ではないから、こー言えば人数も限られてくるからピンとくるだろうと思ったけど、そーでもないようだ。
「ふーん……え?
鴉谷?
どこの中学から来たヤツ?」
どこの中学だったっけ?
高校を出て左に曲がったから……
「さあ……初芝とか北野田の方に住んでるちゃうかな?」
「日置荘中学か?
清木とかのツレか?」
言われてボクも自信がなくなってくる。