誰かの断片でボクのすべて
公園のブタのオブジェに腰かけて待っていると、陣内は20分もせずにやって来た。
やはり「40分ほど」と言ったのは、自転車で遊びに来てた頃のクセのようだ。
公園の入り口で原付のエンジンを切って、跨がったまんまパタパタと足で地面を蹴ってこちらにやって来る。
「おお、平良。
大丈夫か?」
ボクは手を挙げて応える。
声を出す気力は無い。
陣内は言葉を続ける。
「なんかエラいことになっとるな。
オレの方がわかりやすいけど、たぶんお前の方が深刻やわ」
ボクはわからなくて訊く。
「わかりやすい?」
陣内は原付を下りた。
「おお。
たぶん、お前はズッポリ何日分も記憶が消えてる感じなんちゃうか?
だから「あれ?オレ、どーしたんやろ?」って感じなんやろ?」
「うん」
「オレ、電話で「これか」って言うたやん?
オレにも記憶が消えてる部分があるって気ィついてん。
それも、お前に関してだけな」
「ウソっ!?」
ボクは新たな情報に驚いた。
「それもな、お前に関するすべてじゃないんよ。
教室で座ってるところとか、一緒に遊んだ記憶はないけどオレらと一緒におるお前の姿とかは、断片的に記憶にあるんよ」
「そうか……何やろ?
なんか安心した」
記憶に残っていない日々のボクも、変わらぬ毎日を過ごしていたのだ。
「安心したって変やろ。
記憶が飛んでるのに」
陣内が笑って言葉を続けた。
「とにかく、お前に関する記憶が全部消えてるわけじゃないんよ。
ただな、お前が誰かと話してたり笑ってる姿の記憶が無いねん。
なんか、一定の条件でお前の記憶が抜き取られてるみたいに。
だから、オレの方がわかりやすいって言うたんよ。
で、オレの感覚からすると、その一定の条件っていうのは、普段のお前のほとんどってぐらいの条件やと思う。
たから、オレとお前が同じ条件やとしたら、お前の方が深刻。
深刻すぎて何がどーなってんのかもわからんぐらいやと思う」
「ああ……そうか。
ありがとう」
ボクはいろんな想いを込めて礼を言った。
陣内のおかげで、ボクはボクの中の空白に対する認識を大きく進めることができた気がするし、何よりも、何か悩みを言えばすぐに駆けつけてくれる気持ちがうれしい。
陣内は、ボクの座ってるブタのオブジェと向き合うオブジェに腰を下ろした。