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第3章区切り 世界は、僕らの知らないところで動いている

 モゴゴゴゴという音が宙に浮いていて、ガポッという音が時折混ざった。


 咲は涙で濡れた顔をボクにこすりつけて泣き続ける。


 ぼんやりと「このまま死ねたらなぁ」と考える。

 ボクにはどうにもできないなら、せめて最後まで挑み続けて敗れた者として、舞台を退場したかった。

 相変わらす、ボクは人任せで卑怯だ。


 ボクは生きている。

 まだ、意識も認識も、ボクであることを保ててる。

 だから、することは、1つ。


 ボクは身をよじる。

 咲の両手からアスファルトに落ちる。

 体の芯の疼くような痛みや、まっすぐに立てないような疲労感を堪えて、ヨロヨロと立つ。

「三木ちゃん……」咲の声。

 咲、上っ面な男でゴメン。

 ボクは勝つためでなく、とどめを刺してもらうために立つんだ。

 嘘つきで卑怯な男。

 目は閉じたままだった。

 開ける気力もない。

 勝てるつもりもない、ポーズだけで立ち上がるファイターが、一体、何を見る必要があるというんだろう……。


 上で、何かが動く気配がする。

「待って、お願い、みんな待ってッ」

 胸を締めつけられるような、咲の声。

 目の前に何かが迫る気配がして、ハッと咲の息を呑む音がした。



 救いは、突然だった。


 パァァァァァァァァァン!

 金属質な大きな音がして、反射的にボクの目は開いた。

 目の前に2人の男の顔があって、まるで鯉が我先われさきに空気を求めるように口を開けていた。

 その目の光には生々しく浅ましいものがあって、トラウマになりそうな表情をしていた。


 キラリと白い光沢が2つの顔の前に走って、ボクは何か透明な壁のようなものに護られたことを知った。


「いやいや、これはスゴいな」

 場違いに明るい声がした。

 声は笑いを含んでいる。


 バッ!と少し堅い大きな音がして、自然と目をやると、ボクの真横に背の高い男が立っていて、手には不自然に大きな扇を広げていた。

 男は、若く、上から下まで、まるで月の光のように真っ白で、明るい日差しの下なら目が痛むほどに眩しいだろう。

 白いズボンに、香港映画に出てくる道士服のような、襟の立った長い上着を羽織っていた。


(男塾の敵役……)


 ボクは言葉を発する気力もなく、心の中でツッコんだ。

 男はボクを押し退け、ボクが立っていた場所に片膝を着くと、その長い上着の内ポケットに手を入れた。

 


 

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