ボクの空白
「へえ。
こんなコーナーやってたんや」
若手お笑いコンビのロケコーナー。
帯番組であるこの番組の、曜日レギュラーの2人が、毎週、各駅で周辺のグルメ情報や名物キャラクターを取材するらしい。
そして、コーナー終わりの告知で、彼らはこう言ったのだ。
「天王寺駅からスタートしたこのコーナー。
来週は○○駅周辺の情報をお届けしま~す!」
ボクはオカズを箸でつまんだまま、口をポカンと開けて止まってしまった。
○○駅?
ということは、このコーナーは始まってから最低2ヶ月以上は続いていることになる。
ボクは初めて視るぞ?
そんなに最近、寄り道してたっけ?
というか、この数週間、学校帰りはどんな風に過ごしてたっけ?
記憶がない。
ボクは気分が悪くなって、箸を置くとリビングに寝転がった。
思い出せない。
思い出そうとすると、頭の中に白いモヤがかかったようになって、くらくらする。
いや、それだけしゃなくて、胸がギュっと締めつけられるように苦しい。
荒い息で天井を見上げていたら、涙まで溢れてきた。
何かがおかしい。
ボクには何か大きな空白があるんだ。
それも、きっと大切な何かが。
ボクはテーブルに戻って、夕飯のオカズを口に運んだ。
気持ちを切り換えよう。
ボクには消えてる記憶がある。
その前提で生きよう。
なら、ボクが確かめるのは3つだ。
なぜ、消えたのか?
何が消えたのか?
それは取り戻せるのか?
「追いついてみせる」
無意識にこぼれた呟き。
言ってから、あれ?ホントにボクは独り言が多いのかもな?と思って苦笑いした。
だから、呟きの意味を深く考えるなんてことをしなかった。
食事を終えて自分の部屋に入ると、ボクはスマホを取り出す。
思い出せる親しい友人。
それも、同じクラスがいい。
あった。
陣内。
顔も声も思い出せる。
LINEで訊いてみた。
『陣内、オレ、最近ケガとかしたっけ?』
返事は早かった。
『あ?イミフなこと言うな』
ボクは質問を変える。
『頭打ったりとかしたかな?』
『どーしてん。
何か思い出されへんのか?』
ボクと陣内の間には、こーゆー、話の早い部分があった。
よっぽど気が合うのか、ボクがわかりやすい人間だからなのか。