フワフワと空虚
「うるさいなぁ」と笑いながら振り返った。
誰もいなかった。
放課後の高校。
廊下からはまだたくさんの声が聞こえてくるけれど、教室にはもう、席に座っているボクだけだった。
ボクは声も出なくなって、体を小さく揺らしながら眼球がひっくり返りそうなくらい目だけが上を向いた。
もしかしたら、そのまま自分で自分の頭の中をのぞき込もうとしたのかも知れない。
まさか(笑)。
ボクは「あれぇ!?」と笑いながら立ち上がって、教科書やノートを学生カバンに詰めて廊下に出た。
廊下ではあちこちで、数人の小さなグループが話しながら盛り上がっていた。
校庭を見下ろす窓の前のグループから大きな笑い声が挙がって、その中の同じクラスの矢吹と麻田が「おう、平良。バイバイ」とボクに気づいて手を振ってくれた。ボクも手を振り返して階段から1階へと降りる。
何があったっけ?
ボクは何をしてたっけ?
あれ? ボク、疲れてるのかな?
「まさか、幽霊を相手に喋ってたとか?」
冗談を呟いて笑いながら、体育館の玄関に並ぶ下駄箱の場所に着いた。
上履きからスニーカーに履き替えながら「そうそう、履き替える間、手荷物を持ってやらないと」と急いで履き終わって、屈めていた体を伸ばして思った。
荷物を持ってやる?
誰の?
まるで、頭という器の中に白い煙のようなものを注入されてるような気分になって、ボクはうずくまった。
おかしい。
何だかおかしい。
なんだか、考えが上手くまとまらない。
違和感で頭がフワフワする。
「おい、平良、大丈夫か?」
後ろから声がかかって顔を向けると、日焼けした肌に少しパーマをかけたような黒髪の男子が立っていた。
「ああ、君は同じクラスの鴉谷……」
ボクは知っていることを復唱して確認するみたいに言った。
鴉谷は「なんで説明口調やねん」と笑いながら、ボクの真正面に回り込んで屈んでくれた。
「どうしてん?
しんどいんやったら、一緒に保健室に行こうか?」
ボクは首を振りながら立ち上がった。
「いいや、さっきから一人でボケばっかりこいてんねん。
独り言とか」
鴉谷は笑いながら立った。
「なんで?
平良は元から独り言多いやん」
「ウソっ!?」
ボクが驚くと鴉谷は「多い多い」と先に歩き出した。
ボクも後を追って自転車置場に向かいながら言う。
「なんかさー、独り言っていうより見えへん誰かに喋ってるみたいな独り言っていうか──」
「あれ?平良って霊感があるタイプやったっけ?」
鴉谷が笑う。