第八話 二つの願い。
蓮はナツキが退室したのを確認してから、魂の入ったホロを一瞥した。
「…これは〈戻し〉だな」
死長の仕事は主に2つ。どの死神がどの魂を連れてくるか采配し任命することと、回収した魂が死神になれる適性があるか判断することだ。
もともと死神になれる条件はかなり厳しい。
一つは享年十九以下。
一つは生前に執着がないこと。
一つは本人の就労希望があるかどうか。これにより乳幼児や病などで意志のない者、或いは意志表示出来ない者の死神任命は不可能となる。
上記の条件を全て満たす者は実際の死者数に対しかなり少なく、死神になれる者は限られている。
ミサは享年二十三だった。それは毎回天界から上がってくる回収リストを見た時から知っていた。
だから蓮はすぐにホロを、回転椅子の横にあるダストケースのような物に入れた。
このケースが長しか知らない、天界に通じる空間となっている。これを使って冥界に残らない――死神にならない――魂を天界に送っているのだ。
言ってみれば魂をゴミ箱に捨てるような行為である意味酷い扱いであるが、逆に言えば他の死神に知られる確率も低く、机に座りながら魂の処理を出来るので蓮はとても画期的だと思っている。
大体、死んで役にも立たない魂なんかゴミ箱行きで充分だ。
全く、次から次へと使えないヤツばかり。
ふぅ、と溜め息をつき、蓮は椅子の背もたれに体を預け、目を閉じた。
そうして毎度毎度同じことを考える。
いかに死神を増やしていけばいいか、を。
これでも歴代や他区域からみればかなりいる方ではある。が、決して人員が足りているわけではない。
死神を増やす為には手段を選ばないつもりだが、かといって自分の信頼を失墜させては、そもそもついてくる者がいなくなるだろう。
今まではギリギリの線で駆け引きをし、出来るだけ死神に引き抜いてきたが、いいかげんに限界だ。
(あぁ、もうヤダ。大体ハナから無理があるんだよ。死神の資格あるヤツが死ななさすぎるし。だからってもっと子ども死んでくんないかなーなんてのは本末転倒だし)
蓮は頭の中でだけやたら子どもくさくなるのが特徴だった。そしてそれが彼のストレス発散法だった。
(天界のヤツらも融通きかなさすぎだっての。なんなのこの制度。世間じゃ俺らが悪者だけど、普通に考えたらあっちのが悪魔的だろー。世界の破滅でも企んでんのか)
自分がちまちま駆け引きをして死神を増やしていても、根本的な問題が解決しない限り焼け石に水だ。
「…………………」
蓮はしばらく黙考していたが、今度は口にして言った。
「………そうだな。多少面倒ではあるが、俺が長で在り続けることの出来る方法が一つある」
恐ろしく冷たい茶色の目で、虚ろに空を見つめた。
「それで俺の願いが二つ叶うわけだ」
低く呟いた後、今さっき考えていたことをすっかり忘れたかのように、いつものごとく何食わぬ顔で仕事を再開した。