第二十四話 とある少年のお話〜諒祐編〜
(やっぱり………引き止めれば良かった)
諒祐は青い顔でトボトボと帰路についていた。
(いつもそうなんだよな。迷って、捨てた方の選択が正しくて、選んだ方の選択が間違いなんだよ。わかってる。わかってるのに………)
あの、二人で生徒会の仕事をしていた日………。
どうにも、東雲のオーラというのかーーが、薄まった気がした。今にも消えそうというか。
諒祐にはそういう、視覚には視えないモノが視える時があった。
だけど、引き留めなかった。あそこで引き留めていれば彼は死ななかったのだろうか。それとも天命として引き留められないことになっているのか。もはや引き留めなかったことが自分の意思なのか、天の意志なのかもわからない。
視えている未来を変えられない自分が不甲斐なかった。
(多分………あいつもなんとなくわかってたんじゃないのかな)
あの時互いに流れた空気はそういう類いのものだった。
一番哀れなのは、東雲でも自分でもなく、瑠璃さんだ。今は後追いでもしそうなくらいに病んでいる。
あのままじゃあ、彼女も消えてしまうかもしれない。現に彼女の持つ光も弱まっている。
せめてもと、しっかりするように、と声を掛けたが、自分の言葉がどこまで響くかわからない。
そう思い鬱々とした気分で歩いていると、駅の方で物凄い音がした。急ブレーキの音、何かがぶつかったような、聞いたことのない衝撃音。
嫌な予感がした。
慌てて現場に向かうと、そこには一人でも助けようとする瑠璃さんの姿とーー空に浮かぶ人の姿があった。黒いローブを着てフードで顔を覆い、怪しげな鎌を持っているが、諒祐にはすぐにわかった。
あれはーー東雲だ。
何故死んだはずの彼がこんな所にーーなんてのは愚問だった。答えは死んでいるからだ。だからあの世からこちらに来たのだろう。でなければ人が空に浮くわけもないし、俺以外の人間が彼に気付かないのもおかしい。
彼は鎌を振り上げ、鳥籠のようなものに光の玉を集めていた。あれは恐らく魂だろう。あの格好といい、死神の真似事をしているに違いない。
気付いて焦り、普段は出さない大声で叫ぶ。
「瑠璃さん!」
彼女が東雲に気付いたら、まずい事になるーーそんな気がした。そして悪いことに、その予感は的中した。
彼女は空を見つめ、東雲と目が合うと、彼の元に走り寄りーーそして、彼と共に何処かへ消えてしまった。
(くそ……っ!また、間に合わなかった!)
諒祐は歯噛みする。
おそらく彼女はもう、戻っては来ないだろう。
諒祐は今度ばかりは東雲を恨み、二人の消えていった虚空を愕然と見つめた。